大阪で「南北問題」が取り沙汰されている。平成27年、令和2年と2度にわたって「大阪都構想」が住民投票で否決された際、区別にみると北区、中央区などを中心とする〈北〉が賛成多数だったのに対し、〈南〉がこぞって反対し、南北が分断されてしまった現象である。
所得格差、年齢構成、気質や情緒までさまざまな議論が沸き起こった。詳細に踏み込むことは避けるが、先進的でビジネスライクな〈北〉と、昔ながらの下町情緒漂う〈南〉は多くの面で対照的なことは事実だろう。
前田久吉が南大阪新聞を創業した天下茶屋は、典型的な〈南〉である。今、南海線と阪堺電車にはさまれた古い町並みを歩くと、梅田の繁華街とは別世界のようなノスタルジーが押し寄せてくる。もっとハッキリ言えば、寂れた感がある。
100年前は違った。南大阪新聞創刊からやや後になるが、大阪毎日新聞のカメラマンだった北尾鐐之助(りょうのすけ)という人物が天下茶屋界隈(かいわい)のルポを残している(※1)。