NATO ポスト冷戦態勢から「抜本転換」

【マドリード=板東和正】北大西洋条約機構(NATO)は30日までスペインの首都マドリードで開催した首脳会議で、東欧加盟国の防衛態勢のさらなる増強を図り、中国にも共同で対処することを決めた。ルールに基づく国際秩序を揺るがすロシアと中国に対抗するため、冷戦終結後の防衛態勢を「抜本的に転換」させる。

ストルテンベルグ事務総長は6月29日、新たな戦略概念を採択した後の記者会見で「同盟の変革と強化を決定した」と語った。戦略概念はロシアを「最大かつ直接的な脅威」と明記。ストルテンベルグ氏はウクライナ侵攻が「第二次大戦後で欧州の安全保障の最大の危機だ」と強調した。

NATOは今回、ウクライナへの支援のほか、バルト三国など東欧の加盟国の防衛態勢を大幅強化する方針を決めた。具体的には東欧諸国に常駐する部隊を旅団級に格上げし、有事に緊急展開させる即応部隊を現状の7倍以上となる30万人超に増員。前線に事前配備しておく装備も拡充し、米国はポーランドに恒常的な軍司令部を新設する方針を示した。

NATOはロシアと冷戦後の1997年、互いに敵とはみなさないとする基本文書を締結。この中で東欧に恒久的な大規模戦力を配備しないとしていた。2010年に採択された前回の戦略概念は、当時のオバマ米政権が「リセット」と称してブッシュ前米政権下で悪化した対露関係の改善を重視。基本文書に基づきロシアを「戦略的パートナー」と表記した。

14年のウクライナ南部クリミア半島の併合などでロシアの脅威が高まると、NATOは対露抑止のためにバルト三国とポーランドへの部隊常駐を開始。この際も駐留部隊を輪番制にするなどして基本文書への配慮をみせてきた。

だが、今回の東欧防衛態勢の強化はさらに、駐留部隊の増加とともに、米国が司令部の設置に踏み込む意向まで見せた。背景にはウクライナの状況を踏まえ、現行の態勢では不十分とするバルト三国などの危機感があった。ストルテンベルグ氏も最近は、ロシアが基本文書に反した行為をとる以上、「(同文書で)東部でのわれわれの存在感を高める能力は制限されない」と述べている。

一方、戦略概念は初めて言及した中国に関し、経済力を背景とした威圧的政策で「われわれの利益、安全、価値に挑んでいる」と指摘。「政治的、経済的、軍事的な手段を使って、力を誇示しようとしている」と批判し、中国の核兵器増強も懸念した。

ストルテンベルグ氏は中国について「敵ではない」とし、戦略概念も「建設的に関与する」余地を残しているが、戦略概念が指摘する中国とロシアの「戦略的パートナーシップの深化」への警戒も強い。

米紙ニューヨーク・タイムズは、中露の権威主義に対抗する姿勢を打ち出した戦略概念を「(NATOが)ロシアを潜在的な同盟国と見なし、中国に全く注目していなかったポスト冷戦期からの抜本的な転換を意味する」と分析した。

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