直球&曲球

葛城奈海 お米の力で日本を強くする

静岡県松崎町の石部棚田
静岡県松崎町の石部棚田

「桐(きり)の花が咲いたら籾(もみ)を振り、栗の花が咲いたら稲を植える」―。以前狭山丘陵の一角で有機栽培の米作りをしていたとき、農家に語り継がれてきたという印象的な言葉に出合った。

現代では、若者たちが帰省する5月の大型連休時に田植えをすることが多いが、元来は年により異なる気象条件に合わせ、花に適期を教えてもらっていたというのだ。先人たちの知恵に感嘆し、その風情にうなった。新緑の里山を彩る薄紫色の桐の花を見て、苗床に種籾をまく。そして、栗の花が独特な香りを漂わせ始めたら田植えをする。数字に頼りがちな現代人は、自然が教えてくれる情報に気付かないばかりか、四季の移ろいを愛(め)でる情緒もどこかに置き忘れてしまったのだろうか。

いうまでもなく、米は日本人にとって特別な食物だ。神話に遡(さかのぼ)れば、天照大神による三大神勅の一つ「斎庭の稲穂の神勅」にも「高天原でつくる神聖な稲穂を子孫に授けよう」とある。天皇陛下が皇居内でなさる田植えも、毎年11月23日の新嘗祭も、この神勅に由来している。

古来、大切な主食だった米が、連合国軍総司令部(GHQ)による戦後政策の影響などで小麦を原料とするパンにとって代わられ存在感を失ってきた。パン食一辺倒だった学校給食に「米飯」が正式に導入されたのは昭和51年のことだ。本来、日本の気候や日本人の体質に合うのは小麦よりも米であるはずだ。日本文化を守る観点からも米の存在価値を見直す必要があるのではないだろうか。ちなみに近年私は毎朝、玄米でできた米粉パンを食しているが、玄米の香りと米のうま味が心地いい。

加えて、食料安全保障の観点からも各地の休耕田をよみがえらせ、「瑞穂の国」日本が誇る米の輸出を推進したい。新型コロナウイルス禍や戦争で物流が滞ると日常生活が脅かされることを私たちは身をもって知った。輸出分のコメがあれば、いざというときに国内供給に回せる上に、対外的な戦略物資にもなる。

「男」という字は、田に力と書く。日本という国から失われて久しく思える「男らしさ」を取り戻す鍵のひとつも、実はここにあるのかもしれない。

【プロフィル】葛城奈海

かつらぎ・なみ やおよろずの森代表、防人と歩む会会長、ジャーナリスト、俳優。昭和45年、東京都出身。東京大農学部卒。自然環境問題・安全保障問題に取り組む。予備役ブルーリボンの会幹事長。近著に『戦うことは「悪」ですか』(扶桑社)。

会員限定記事会員サービス詳細