編集者が作家から受け取った原稿を出版社まで持ち帰る。大切な仕事にもかかわらず、しばしば事故が起こる。漫画家の故赤塚不二夫さんも被害者の一人だった。昭和48年、当時「週刊少年マガジン」に連載中の「天才バカボン」の担当編集者が、出来上がったばかりの原稿をタクシーの中に置き忘れる。
▼赤塚さんは編集者を叱るどころか飲みに誘った。酒場から帰って同じ原稿を仕上げ、「二度目だからもっと上手(うま)く書けた」と言って手渡した。住所を明記した封筒に入っていた原稿は、1週間後に郵送されてきた。娘の赤塚りえ子さんが著書『バカボンのパパよりバカなパパ』で紹介していた。
▼こちらの無くし物は、戻ってきたからといって一件落着とはいかない。兵庫県尼崎市の全市民約46万人の個人情報が入ったUSBメモリーの紛失という、前代未聞の騒動である。市から業務を委託された会社の協力会社の社員が持ち出し、居酒屋で泥酔した挙げ句、帰宅途中にメモリーの入ったカバンをなくした、との発表だった。無事に見つかりはした。