京都新聞ホールディングス(HD)が、ほぼ勤務実態のなかった大株主の元相談役に多額の利益供与を続けた問題は29日、同紙の現役記者が元相談役らを刑事告発するという異例の事態に発展した。HDが長年にわたり元相談役を厚遇したのは、会社人事に対する「オーナー家」の影響力を恐れたためだとされる。会社経営に口出ししない代わりに巨額の報酬を保証する-。問題を調査した弁護士らの第三者委員会はこうした〝密約〟の存在も示唆。取締役の間では、オーナー家の処遇を話題にすることすらタブー視されていたという。
兄弟会社に許永中氏の影
「会社がやらないなら、他の誰かが手を挙げてやらざるを得ない」
元相談役、白石浩子氏(81)らの刑事告発に関わった京都新聞の日比野敏陽(としあき)記者(57)は29日の会見でこう述べた。
HDの第三者委が「違法な利益供与」と認定したのが今年4月。その後、京都新聞はHDと白石家の関係について紙面を割き、「聖域化」「企業統治に不備」と内省的に報じたが、刑事責任の追及には動かなかった。日比野氏は「このままでは問題が忘れられてしまう」と思い、告発に踏み切ったという。
HDの前身は昭和17年に合併で誕生した旧京都新聞社。同21年に代表取締役に就いた白石古京(こきょう)氏は、35年にわたって社長の座にあり続け、日本新聞協会の会長も務めるなど同社の「中興の祖」と呼ばれる。カリスマ経営者として古京氏が君臨する中で、いつしか古京氏の一族である白石家が「オーナー家」と称されるようになったという。
第三者委の報告書や関係者の話によると、多額の報酬が問題視された浩子氏は古京氏の息子、英司氏の妻にあたる。英司氏は古京氏が退任した同56年に京都新聞社社長となり、兄弟会社だった近畿放送(現京都放送、呼称・KBS京都)でも社長を務めたが、58年に急逝した。KBS京都は「闇の紳士」と称された許永中氏が関与した戦後最大の経済事件「イトマン事件」にからみ平成6年に経営破綻、再建に十数年を要している。