2025年大阪・関西万博が目標として掲げる「脱炭素社会」。大阪府ではこれを環境問題改善の取り組みとしてだけではなく、新たなビジネスチャンスとにらみ、企業に幅広い支援を実施している。「月の石」などが注目された1970年万博から五十数年。伸び悩む大阪のものづくり産業は、2025年万博が発信する「脱炭素」の波に乗って成長産業へ転じる起爆剤となるのか。
シリコーンのグラスで「脱炭素」
きめ細かく彫られた切り子ガラスのような美しいデザインで透き通るグラスは、地面に落としてもレンジで温めても割れない。
大阪府八尾市のゴム部品メーカー「錦城護謨(きんじょうごむ)」が令和2年に発売した「シリコーンロックグラス」は、同社が昭和50年代から取り扱ってきたシリコーンゴムが原料。マイナス30度から200度まで熱に耐えて割れず、長年の技術でガラスを超える透過率も実現した。
ガラスよりも割れにくい一方で、石油由来のプラスチックに比べて二酸化炭素(CO2)の排出量が大幅に少ない。機能性のみが着目されがちだったが、同社は新たなアピールポイントとして、「脱炭素」を前面に打ち出すことにした。
戦略は奏功し、今年2月にはベンチャー企業がアイデアを競う「ICCサミット」で、グランプリを獲得。手応えを感じた同社の太田泰造社長が、大阪のものづくり企業全体のさらなる飛躍の足掛かりとして期待するのが、大阪・関西万博だ。
「月の石を展示した70年万博で多くの子供が宇宙に関心を持ったように、今度の万博で『脱炭素』を前提としたものづくり技術をアピールすれば、大阪のものづくりにも関心を持ってもらえ、中長期的な発展につながるのではないか」
万博で描く環境都市
CO2を出さずに水素で生み出した電力が供給され、バスは電気や燃料電池で動く。買い物をすると商品製造時のCO2排出量が消費者に示され、マイボトルでコーヒーやビールを楽しむ店が当たり前になっていく-。
今年5月、大阪府が大阪・関西万博に向けた「大阪版アクションプラン」で示したまちの目指すべき姿だ。府は今年度予算に11億円余りを計上し、企業に脱炭素への貢献を促している。
脱炭素社会に向けた新たな技術開発や実証実験などを実施する府内外の5~7事業者に最大1億円を補助する。さらに中小企業に対しては、自社技術の強みを把握できるよう府の委託事業者が助言を行い、脱炭素に貢献する新規事業を考えてもらう。担当者は「大阪のものづくり産業が伸び悩む中で、中小企業が技術革新に挑戦する好機となるのではないか」と力説する。
町工場を観光資源に
万博に向けて、府内の企業も動き始めた。八尾市や堺、東大阪、門真の各市の中小企業などは令和2年から、連携して町工場の作業工程を観光資源として一般公開する「ファクトリズム」というイベントを始めた。単独では発信力が弱い中小企業でも、複数社が連携することで府内のものづくり産業の魅力をアピールする狙いだ。
万博開催時には、国内外からの来場客にイベントに参加してもらう青写真を描く。さらに、そこに各企業の「脱炭素」への取り組みが加われば、相乗効果も期待できる。
もっとも、こうした動きも現状では「勝手連」的なものにとどまっている。万博に出展するための対応窓口が大阪産業局や日本国際博覧会協会など多岐にわたり、複雑なためだという。 イベントの実行委員長を務める太田さんは「万博協会や行政機関には対応窓口を整理してほしい」と注文を付けた上で、「日本のものづくり技術は強みだ。万博で技術を披露すれば会社に良い変化をもたらすだけの価値がある」と期待している。(尾崎豪一)