「何も前進していない」。和歌山県紀の川市で平成27年2月、近所の男に殺害された市立名手小学校5年、森田都史(とし)君=当時(11)=の父親(74)は、わが子の遺影の前で怒りをあらわにした。実刑となった加害者に対する民事訴訟で4千万円超の損害賠償も確定したが、これまで1円も支払われていないのだ。「弱い者が泣き寝入りをすることが許されるのか」。父親は被害者や遺族の置かれた立場の不条理さに無念さを募らせる。
「年数がたって事件が忘れられていく」
事件から7年以上がたったが、都史君の遺骨は自宅に置かれている。父親は加害者側の姿勢に納得できるまで納骨しないと決めているからだ。「人として、まずは謝罪をしてほしい」と述べ、賠償金の支払いも条件に挙げる。「(支払いが)100%ではないにしても、それに近い形で(加害者側と)お互いに納得できれば」と考えている。ただ、「お金の問題ではない。償いの意思を示させるには、そうするしか方法がないからだ」とも訴える。
遺族は事件後、中村桜洲(おうしゅう)受刑者(29)に約7100万円の賠償を求めて提訴。和歌山地裁は30年8月、約4400万円の支払いを命じ、そのまま確定した。刑事裁判でも令和元年7月、殺人罪などで懲役16年の2審大阪高裁判決が確定したものの、受刑者側からは賠償を支払う意向は示されず、謝罪の手紙すら寄せられていない。