浪速風

失われた良心

故近藤紘一の名著『サイゴンから来た妻と娘』(1978年刊)に、初めて来日した13歳の娘が、飲み物の自動販売機に感激する場面がある。真剣な顔で硬貨を入れ、こわごわとボタンを押し、望みの缶が出てくると、手を打って喜んで言う。「サイゴンにもあると便利だな。でも一晩で壊され、お金もジュースも盗まれてしまうかな」

▶時代はベトナム戦争終結時である。ベトナムの荒れた国情と、平和な日本の対比を示したエピソードだった。日本には今、219万台の自販機があり、4億3190万ケースの飲料を売り上げている。近年流行の冷凍ギョーザなどの無人販売所は、平和な自販機大国だからこそ生まれた商法だろう

▶しかし、支払いをせずに商品を持ち去るこそ泥が後を絶たない。防犯カメラに写っていることも意に介さず、ペアルックで犯行を繰り返すやからまで現れた。良心や罪悪感など持ち合わせない日本人が増えたのだろうか。その卑しさを嘆く。

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