消費が落ち込む日本酒の製造現場が大きく変わろうとしている。スタートアップ(新興企業)が次々と参入し、業界の常識を超えた販路拡大策や斬新なブランドで市場を開拓。後継者不足や事業継続に悩む現場を支援するデジタル技術も生まれている。伝統産業は大きな転換点を迎えている。
機械が動き始めると、ラインに乗った空き缶が次々と内部に吸い込まれ、日本酒が注がれていく。芳醇(ほうじゅん)な香りを逃さないよう高速でフタがされ、1缶分の充塡(じゅうてん)作業はわずか数秒だ。
充塡作業が行われているのは、創業170年の酒蔵「松岡醸造」(埼玉県小川町)。全国新酒鑑評会で8年連続金賞を受賞したこともある老舗だが、充塡されている銘柄は同社のものだけではない。スタートアップの「Agnavi(アグナビ)」(神奈川県茅ケ崎市)が全国の酒蔵から日本酒を集め、缶への充塡を請け負っているのだ。