「家計は値上がりを許容している」という日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁の発言が大炎上した。物価高騰に怒りと不安を感じている庶民の神経を逆なですることばで、非難はやむをえない。だが、黒田氏に攻撃が集中しているのをいいことに、政府や企業がやるべきことをやらないのは怠慢だ。黒田氏の言う「強制貯蓄」を溶かすためにも、諸外国のような消費税減税と、積極的な賃上げを進める必要がある。
強制貯蓄とは、いまの情勢でいうと、新型コロナウイルスの感染拡大で消費者が飲食や買い物にお金を使えず、半強制的に行わざるをえなかった貯蓄をさす。日銀の試算によると、国内の強制貯蓄は令和2年末時点の20兆円から、3年末時点には2・5倍となる50兆円へ膨らんだ。
今月6日の講演で、黒田氏はコロナ禍で蓄積した強制貯蓄が「家計の値上げ許容度の改善につながっている可能性がある」と述べた。
元ネタは渡辺努・東大大学院教授が行った調査。なじみの店でいつも買っているものが10%値上がりしても、その店で買うとした回答が5割以上に増えた-。この結果を、黒田氏は「許容度の改善」と言い換えた。
言い換えがわざとだったのか何の考えもなかったのかは分からない。しかし配慮がなさ過ぎた。ネット上に「庶民感覚が分かっておらず腹立たしい」といった声があふれ、「#値上げ受け入れてません」というハッシュタグがツイッターのトレンド入りしたのは無理もない。