大津の妹暴行死 児相、ヤングケアラーの少年に対応できず

報告書を手にする野田正人立命館大大学院特任教授=15日、滋賀県庁
報告書を手にする野田正人立命館大大学院特任教授=15日、滋賀県庁

大津市で昨年8月、無職少年(18)が小学1年の妹=当時(6)=を蹴るなどして死亡させた事件で、県の児童虐待事例検証部会(部会長、野田正人立命館大大学院特任教授)が今月15日、課題と改善策・提言をまとめた検証結果を三日月大造知事に報告した。家族が崩壊し、ヤングケアラーの状態だった少年に適切に対応できなかった児童相談所(児相)の対応を問題視している。内容を詳報する。

検証部会は、弁護士、医師、元児相所長ら7人で構成。昨年8月から非公開で5回検証会を開き、計13ページの報告書にまとめた。

引き継ぎ不十分

報告書では、まず、所管する大津・高島子ども家庭相談センターの引き継ぎの手法や様式を問題とした。

少年と妹は幼少期から長期間施設などの社会的養護下にあり、昨年4月ごろに少年が大津市内の母親(41)宅に転入するまでは、3人が一緒に暮らしたことはなかった。その上で、大津・高島子ども家庭相談センターと、同居前に暮らしていた県外の児相との引き継ぎが不十分で、「(妹の)安全と安心に対するリスクを読み取ることができなかった」とした。

事件発生後に母親が覚醒剤取締法違反容疑などで逮捕され、所持と使用の疑いで起訴された。母親の過去の記録でも薬物使用歴について言及があったという。報告書では「そのリスクについても把握、考慮を要するものであった」とし、母親と家族のアセスメント(評価)について、「家族再統合や家庭的養育を優先するあまり、長期的に家族間の関係性が維持されるか否かを熟慮することなくケースを引き継いだ」と問題を指摘した。

母不在リスク過小評価

昨年7月、母親が夜間不在の日があったと妹が学校で話し、大津・高島子ども家庭相談センターは夏休みに妹を一時保護する方針を確認した。そんな中の同月21日深夜、少年と妹がコンビニで保護される。同29日になって母親と連絡がつき、8月4日に大津・高島子ども家庭相談センターへの来所を約束したが、その直前の8月1日、事件が発生している。この間、母親は外出を繰り返していた。

報告書では、家族再統合中の支援について、母親が外出を繰り返し、少年が一時的に妹の身の回りの世話などを日常的にするヤングケアラーの状態だったとした上で、大津・高島子ども家庭相談センターが「引き継ぎ当初の想定とは異なる家族構成になった時点で改めてアセスメントと見立てをして速やかに見直し、ケース支援にあたるべきであった」「母不在のリスクを過小評価してきた」と指摘した。

悲劇、繰り返すな

検証結果について野田部会長は、「今回の事件は例えるなら400メートルリレーでバトンを落としてしまったようなもので、防ぐことはできた。ただ、児相を責めているのではない。スタッフなど国の基準はあくまでミニマム(最低限)で、もっと充実させるべき。レベルの高いアセスメントも不可欠で、そのためにも研修の機会が必要」と話す。

一方、報告書では異例の要求を国にしている。「他府県児童相談所との合同検証の可能性」と「司法機関などの有する事案に関する情報提供」について、検討するよう求めている。

野田部会長によると、今回、少年と妹が同居前に暮らしていた県外の児相に合同検証を呼びかけたが、応じなかったという。大津家裁には、報道機関に配布した少年審判の決定要旨などの送付を依頼したが、これも拒否されたという。

くしくも同じ今月15日、「こども家庭庁」の設置関連法が参院本会議で可決、成立した。首相の直属機関で、少子化や児童虐待、貧困などの課題に一元的に対応できる態勢を目指す。

ただ、何が最優先されるかを考えれば「こども家庭庁」の設置を待つまでもなく、答えは明白だ。今回のような子供の悲劇を繰り返してはならない。(野瀬吉信)

大津の妹暴行死事件 令和3年8月1日、大津市で小学1年生の女児=当時(6)=が外傷性ショックで死亡し、大津署は同月4日、17歳だった兄の無職少年を傷害致死容疑で逮捕した。当初は女児が自宅近くの公園のジャングルジムから転落したとされていた。少年は大津家裁に送られ、同家裁から同9月に初等・中等(第1種)少年院送致の保護処分決定を受けた。母親(41)は事件後、覚醒剤取締法違反(所持)容疑などで逮捕された。

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