まちを照らす希望の灯り 町内唯一のスーパー、住民の手で再生

約20年ぶりに帰郷し、店長候補として期待を寄せられる山内豊和さん(左)=兵庫県神河町
約20年ぶりに帰郷し、店長候補として期待を寄せられる山内豊和さん(左)=兵庫県神河町

少子高齢化の影響が表れやすい過疎地域。スーパーなど食料品、日用品の販売店が地域からなくなり、買い物に困る「買い物難民」もその一つだ。高齢化で自動車運転免許証を返納する人も増えるなか、地域の買い物手段確保の重要性が増している。兵庫県で最も人口が少ない神河町では約5年前に地区唯一のスーパーが閉店。住民有志が店を買い取り、持続的な経営に向けた取り組みを進めている。

北は日本海から南は瀬戸内海まで広がる兵庫県。県中央部に位置する神河町は、平成17年に旧大河内町と旧神崎町が合併して誕生した。町などによると、5月31日現在の人口は1万770人で県内最少。スーパーは旧神崎町内にある町立病院周辺に複数あるが、旧大河内町の寺前地区では「寺前楽座 まちの灯り」が唯一の店舗だ。

寺前地区で、まちの灯りの前身のスーパーが閉店したのは平成29年8月31日。神河町在住の県議、上野英一さんは「何の前触れもなかった」と振り返る。

町の高齢化率は37・92%。町立病院周辺のスーパーまでは自動車などを使う必要があり、高齢者を中心に日々の買い物に困る人が続出した。

店舗の再開を望む住民の声を受け、上野さんら地元有志がスーパーの再開に向けて活動を開始。有志らで出資してスーパー運営の母体となる寺前村振興公社を立ち上げた。

無償で協力

スーパー再開にあたり、上野さんらが強く意識したのは住民を巻き込むことだ。「おらが店」の意識を持って利用してもらわなければ経営は立ちいかない。運転資金を確保するため、地区の全世帯にあたる1226世帯から1世帯1万円ずつ資金提供を受けた。

その資金などを元手に土地や建物を所有者から取得。固定資産税などの諸経費を軽減するため、土地や建物は町の名義とした。店内の設備を一新する必要が生じるなど想定外の追加資金も迫られたが、国の補助金や地域金融機関からの無担保融資で乗り越えた。

紆余曲折をへて30年7月、「まちの灯り」がオープン。店名の由来となったのは、住民から寄せられていた「スーパーがなくなり、まちから灯りが消えたようや」という声だ。

住民らの力でオープンした「まちの灯り」=兵庫県神河町
住民らの力でオープンした「まちの灯り」=兵庫県神河町

令和3年度の売上高は約1億4千万円。前身スーパーの閉店前の実績(約1億3千万円)よりわずかに伸びた。まだ赤字だが、利用者の減少が避けられない環境では「改善された」と上野さんはみている。

根本的な課題は、肉や魚といった生鮮品をどうさばくかだ。高齢者は肉や魚を買っても使いきれない家庭が多いため、総菜を好む傾向があるという。一方、生鮮品のタイムセールが行われると買い物客が集まる。需要と供給のバランスを見極め、仕入れにかかる諸経費をいかに節約できるかが今後の課題だ。

徒歩や自転車でも来られない人のため、送迎車の運行も計画している。運転手は無償で協力してくれる人のめどがついているという。上野さんは「過度の負担になると続かないが、住民が自発的に無償でやらなければ、ここまで来られなかった」と語る。

期待の若手

昨年からは「希望の星」と呼ばれる若手が加わった。同町出身の山内豊和さん(41)は大学卒業後、長く都内で飲食業を営んだが、昨年帰郷し、町の地域再生協働員としてまちの灯りで働いている。飲食業勤務の経験を生かし、弁当作りを担当するなど即戦力として活躍している。

約20年ぶりに帰郷した山内さん。空き家や耕作放棄地の増加など、故郷の風景の変化を感じている。中学校時代に約90人いた同級生は2割ほどしか地元にいないという。周囲から「いずれは店長に」と期待されており「大儲けは無理でもずっとやっていけたら。地域のために役立ちたい」と話している。

移動販売も

住民の買い物手段の確保は全国共通の課題だ。「買い物難民」に関する農林水産省の調査(令和3年度)によると、全国で86・4%の市町村が何らかの対策が必要と回答。人口規模の小さい自治体ほどその割合が高くなる。理由の上位は住民の高齢化や地元小売業の廃業だ。

対策では、住民らがスーパー運営のための組織を立ち上げる場合のほか、自治体が積極的に関わる事例もある。

兵庫県小野市は昨年4月、高齢化率が約3割の下東条地区で、全国的に珍しい公設民営方式のコンビニを開設。地区では一番近くのコンビニでも2、3キロ離れており高齢者からは「買い物に困っていたので助かる」といった声が聞かれ、好評という。

市は住民でつくる任意団体に運営を委託。初年度は店舗売り上げだけでは赤字となったため、市が運営費を補助した。市は運営の課題を検証し、他地区での店舗開設も検討している。

民間企業の参入も。とくし丸(徳島市)は、軽トラックによる移動販売を展開。地域のスーパーと提携し、移動販売を担う個人事業主が訪問する仕組み。当初のサービス地域は徳島県内だったが、現在は全国に広がっている。

官民で対策は進むものの、課題は採算性だ。利用減でサービスの中止や閉店にいたるケースもある。「まちの灯り」の上野さんは「利用者の増加は見込みにくいなか、単価や利用効率の改善など対策が必要」と話す。(倉持亮)

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