朝晴れエッセー

もう一つの誕生日・6月26日

誕生日のお祝いなど、特に気にしない家庭で育った。少し寂しい気持ちもあったが、言葉にすることもなく淡々とその時は過ぎていった。

私には一人娘がいる。誕生日くらいは思い出になるようなことを何かしてあげたいが、大学生の欲しい物など想像もつかない。時の流れは残酷にも、私の感性から流行のアンテナをすっかりさびさせていた。

だが、諦めきれない私は娘に問う。「何が欲しい?」「もずくスープとか早ゆでパスタをいっぱい」。なんだか主婦同士の会話である。

まさか、誕生日のお祝いに食料品を運ぶことになるとは。これじゃあ普段のやり取りと何ら変わらないが、気の利いたことも思い付かず、晴れない気持ちのまま車を走らせた。

マンションに到着すると、荷物を運び入れるために3階から下りてきた娘。この後、どこかへで出かけるのだろうか。少し大きめのバッグを肩に掛けていた。本当は外出したいのに無理して家にいてくれたのかしら。

すると、何やらゴソゴソ。バッグの中から、虎の絵が描かれた紙袋が姿を現した。大好物のようかんの詰め合わせである。「お母さん、産んでくれてありがとう」と、紙袋を差し出す娘。面はゆい気持ちと同時に、自分は母にこんなお祝いをしたことがないことを悔やんだ。もう少し早く気が付いていれば。

48歳とはいっても、母親としてはまだ20歳。もう一つの誕生日は、成人式にも似た気の引き締まる日になった。

赤樫順子(48) 松山市

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