ザ・インタビュー

芸人仲間へ愛と尊敬 徳井健太さん著『敗北からの芸人論』

「30歳くらいから、年を取っているほうが面白いと思うようになりました」と話す徳井健太さん(酒巻俊介撮影)
「30歳くらいから、年を取っているほうが面白いと思うようになりました」と話す徳井健太さん(酒巻俊介撮影)

独自の視点でお笑い芸人を論じた『敗北からの芸人論』を出版した。「腐り芸人」と言われていた著者がたどり着いたのが、ストレートに仲間を褒めること。才能のなさに絶望しながらも、笑いの世界で生き残ってきた著者だから書けた、芸人の生き方や笑いへの情熱を、おもしろく、時にあたたかく伝えている。

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新潮社のニュースサイト「デイリー新潮」での連載をまとめた本書は、先輩の東野幸治さんら多くの芸人の人気理由を分析。執筆のきっかけは、東野さんのコラム『この素晴らしき世界』(同社刊)の後継として指名されたことだった。

「東野さんから『君は文章を書く方が向いてるね、しゃべるのは下手だね』って言われまして。俺も昔からそう思っていたんですよ。しゃべることがまとまらない。文章を書くほうが楽です」

そもそも芸人になったのは軽い気持ちからだった。高校時代、将来は料理の専門学校に行こうと思っていたが、同級生の「お笑いをやってみたら」という一言で方向転換。「家を出たかった。東京に行けるならなんでもよかった」という。

『敗北からの芸人論』
『敗北からの芸人論』

東京NSCに入学するも、後に「ピース」というコンビを組む又吉直樹さんと綾部祐二さんのおもしろさに圧倒される。誘われてコンビを組んでは解散していたが、NSC卒業後に声をかけてくれた吉村崇さんとコンビを結成した。

鳴かず飛ばずの時期が続き、他の芸人への嫉妬もあって、10年ほどテレビを見なかった。「27~28歳くらいまでは、酒を飲んだりギャンブルしたり。元々夢もなかったし、破天荒というか破滅的でしたね」と振り返る。

だが、海外ロケの仕事を機に注目されるようになり、人気バラエティー番組にも出演。転機となったのが番組「ゴッドタン」だ。テレビバラエティーになじめない芸人が「腐り芸人」として本音を明かす企画だが、うまく振る舞えない。それなら発想を変えて「褒める方向にいこう」と好きなものや芸人を褒めた。次第に「悟り芸人」と呼ばれるように。同業者をくさすのではなく、ストレートに褒めるという異色の存在になっていった。

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本書の魅力の一つが人気者たちのドラマだ。M-1グランプリ準優勝のオードリーはどのように売れたのか。かまいたちの捨て身の覚悟と戦略は何だったのか。「ナンバーワンを目指したことない奴が、オンリーワンになれるわけない」という、極楽とんぼの加藤浩次さんの仕事論は印象的だ。

取り上げた芸人に共通するのは、「敗北」という切り口。笑いへの情熱とはい上がろうとする芯の強さだ。挫折や葛藤を経て自分のスタイルを見いだしていくストーリーが読者の共感を呼んでいるという。

尊敬と愛がこもった文章は、芸人たちへの手紙のようだ。「お笑いに対する愛というより、人かもしれない。多分芸人が好きなんでしょうね。どんな人生を送ってきたか聞きますね。ろくでもない生き方をしている人たちが頑張っているのが好きなんです」

相方の吉村さんとは月に1回会う程度だ。「漫才やコントで売れたコンビではないから、苦手なことをやるのは時間の無駄かな。海外ロケとか行った方が多分面白いし、話題になると思います」

今後について尋ねると、野心や野望もないという。「目の前の仕事で、ウケればいいということしかないですね。好きなお笑いの仕事がきて、ライブにも呼ばれて今はちょうどよい。後はもうちょっとお金があれば(笑)。これが50歳になった時どうなっているかは分かりませんけれど」

3つのQ

Q仕事の息抜き方法は?

酒も飲みますけどやっぱり飯じゃないですかね。おいしいのにつぶれそうな店に行ってます

Q欠かさず見ているテレビ番組は?

「火曜は全力!華大さんと千鳥くん」です。今いちばんワクワクして見ています

Q最近読んでおもしろかった本は?

樋口毅宏さんの『おっぱいがほしい! 男の子育て日記』。子育てに悩んでいる人は全員読んだ方がいい

とくい・けんた 昭和55年、北海道出身。平成12年、東京NSCの同期、吉村崇と「平成ノブシコブシ」を結成。テレビ番組「ピカルの定理」などで活躍。ユーチューブチャンネル「徳井の考察」も開設している。

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