書店バックヤードから

Z世代を魅了する異世界転生ノベル

さえない主人公が死んで転生した異世界で大活躍する-。そんな「異世界転生もの」と呼ばれる漫画やライトノベルが若年層を中心に流行しています。ただ、昔から描かれてきた「転生」という願望の産物はご都合主義なものばかりではありません。名作SFから日本人の宗教観を見つめる民俗学まで、骨太な本が集まりました。(司会は文化部・田中佐和)

田中 今回から新メンバーが参加されます。

佐々木 ジュンク堂書店大阪本店で文芸書を担当している佐々木梓です。よろしくお願いします。

田中 異世界転生ものがブームらしいですね。

佐々木 若い客層の店舗では4~5年前からよく売れていて、最近アニメや映画にもなっています。

百々典孝(紀伊国屋書店梅田本店) 『転生したらスライムだった件』とかね。

中川和彦(スタンダードブックストア) スライム? 何言ってるか全然分からないんやけど…。

田中 まずはそんな中川さんからどうぞ。

中川 今回の僕のズレはすごい気がする。

スタンダードブックストア・中川和彦さん選

・芳賀日出男著『日本の民俗 暮らしと生業』(角川ソフィア文庫)

・赤阪友昭著『星への祈り、銀鏡神楽 ドキュメンタリー映画「銀鏡 SHIROMI」オフィシャルガイドブック』(映画『銀鏡 SHIROMI』製作委員会)

・管啓次郎、小池桂一著『野生哲学──アメリカ・インディアンに学ぶ』(講談社現代新書)

中川 転生って「よみがえる」みたいなことでいいのかな? 僕いま還暦なんですが、人に「還暦は再び生まれ変わる、という意味だよ」と言われて意識するようになって。そこで『日本の民俗 暮らしと生業』(芳賀日出男著/角川ソフィア文庫)にしました。

『日本の民俗 暮らしと生業』(芳賀日出男著/角川ソフィア文庫)
『日本の民俗 暮らしと生業』(芳賀日出男著/角川ソフィア文庫)

中川 この中には、祭りや神楽には「よみがえりの願望」があると書いてある。そもそも毎日太陽が昇って沈むというサイクルで暮らしていること自体、日々よみがえっているともいえる。自然や宇宙に畏敬の念を抱きながらそれを繰り返すことが生きていくということなんかなと。

田中 そうきますか。独特の切り口ですね。

中川 先日「銀鏡 SHIROMI」という、宮崎県の「銀鏡神楽(しろみかぐら)」のドキュメンタリー映画を見たんだけど、神楽って神や宇宙と交信するものなんだと知って興味がわいてきて。だから2冊目は映画のオフィシャルガイドブック。

百々 神道の考え方ですね。神社に参拝するのも、参道(産道)を通って生まれ変わるという意味だとされていますし。中川さんが精神世界にもぐりこんじゃうから紹介しづらくなりましたが…。

紀伊国屋書店梅田本店・百々典孝さん選

・半村良著、日下三蔵編『日本SF傑作選6 半村良』(ハヤカワ文庫JA)

・山田風太郎著『魔界転生(上・下) 山田風太郎ベストコレクション』(角川文庫)

・筒井康隆著『時をかける少女』(角川文庫)

百々 僕は『日本SF傑作選6 半村良』(半村良著、日下三蔵編/ハヤカワ文庫JA)の中の『戦国自衛隊』です。

『日本SF傑作選6 半村良』(半村良著、日下三蔵編/ハヤカワ文庫JA)
『日本SF傑作選6 半村良』(半村良著、日下三蔵編/ハヤカワ文庫JA)

百々 軍事演習中の自衛隊が、長尾景虎(後の上杉謙信)と武田信玄が戦っている真っただ中に飛ばされる。「戦国時代に近代兵器を持っていったら圧勝できるんじゃないか」という男子の妄想をかなえる一冊です。自衛隊員それぞれの人間ドラマもあり、最後は気持ちいいむなしさを感じられます。

中川 面白そう。

百々 おすすめです。『魔界転生』も歴史上の剣豪たちを戦わせたら誰が最強か-という作品。主人公の柳生十兵衛と戦うのが、魔界の者としてよみがえった宮本武蔵や鍵屋の辻の仇討で有名な荒木又右衛門たち。彼らの生への執着が禍々(まがまが)しくてひりひりします。

ジュンク堂書店大阪本店・佐々木梓さん選

・米澤穂信著『ボトルネック』(新潮文庫)

・鳥山明原作、ドラゴン画廊・リー漫画『DRAGON BALL外伝 転生したらヤムチャだった件』(ジャンプコミックス)

・やまだ紫著『マンガ日本の古典21 御伽草子』(中公文庫)

佐々木 私は『ボトルネック』(米澤穂信著/新潮文庫)にしました。高校生の男の子ががけから落ちて自分が生まれなかった世界に飛ばされてしまう。自宅には自分の代わりに存在している人物が住んでいて、現実世界では死んだ恋人も生きている。何もいいことがなかった現実とは反対の世界なんです。そこに伏線が張られていて最後に種明かし、という青春ミステリーです。

『ボトルネック』(米澤穂信著/新潮文庫)
『ボトルネック』(米澤穂信著/新潮文庫)

田中 現状に満足していない主人公というのは、最近の異世界転生ものとも共通しますね。

佐々木 現実よりいい世界なんだけど、それは自分の世界ではないし、主人公は戻るための方法を探します。10代の子の気持ちが丁寧に描かれていて切ないです。2冊目は完全に軽い感じで、漫画『ドラゴンボール』の外伝『転生したらヤムチャだった件』。はやりの異世界転生もののライトノベルは短いものでも6巻くらいあって長いので、入門編としては一冊にエッセンスが詰まったこちらがおすすめです。

田中 そもそもなぜブームなのでしょうか。

中川 現実逃避じゃない?

百々 読者の多くは主人公と似た境遇の人で感情移入しやすいのでは。

佐々木 転生ではないですが、最終的に体が大きくなって結婚する「一寸法師」など、今よりいい自分になるという物語は古典の御伽草子にもあります。思想的な意味では昔からさほど変わっていないのかもしれませんね。


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