これまで選手として何度も出場してきた陸上の日本選手権に初めてコーチとして参加した。勝敗に生死を懸ける程の覚悟で臨んでいた若い頃とは少し違った感覚だった。指導する3人の選手たちが負ければ、もちろん悔しいのだけど試合自体は楽しくもあった。
まず女子棒高跳びの竜田夏苗(ニッパツ)が7年ぶりに日本一に返り咲いた。彼女とは元々、練習場で言葉を交わす程度の間柄だったが、指導を頼まれ、2年ほど前から本格的に見るようになった。当時、彼女は「競技場に行くのも怖い」という状態だった。踏み切りへの怖さ、指導者との人間関係の怖さ…さまざまな要素が絡み合い、それを抱え込んで震えていた。