混沌の先に 参院選2022

雇用と労働 コロナ禍、若者の人生激変

新規就農に向けた研修で、イチゴの苗の育て方を学ぶ藤田大介さん(左)=22日午前、和歌山県紀の川市
新規就農に向けた研修で、イチゴの苗の育て方を学ぶ藤田大介さん(左)=22日午前、和歌山県紀の川市

「新型コロナウイルス禍がなかったらどんな人生を歩んでいたのか」

東京都江東区の会社員の男性(23)は、今でもそう考えることがある。

男性は大学3年生だった令和元年6月に就職活動を開始。「フラッシュモブ」と呼ばれる雑踏でのパフォーマンスを行うサークルでの活動経験を生かし、イベント業界を志望した。翌年1月には業界大手企業から内定を得た。順風な就職活動のはずだった。

だが、新型コロナの感染拡大で風向きが一転。緊急事態宣言に伴うイベント中止などが影響し、5月に内定が取り消された。「イベント業界に就職するために活動してきたのに」。以降、就職活動に身が入らなかった。

唯一、リフォーム会社への就職が決まったが、会社の経営状況は悪く、仕事は肉体的、精神的負担が大きかった。体調を崩し、2週間の療養を余儀なくされたのを機に退職した。

その後、当初内定を得た会社より規模は小さいものの、希望するイベント会社に入社できた。だが周囲には志望業界に進めず、別の業種で働く友人が多くいる。男性は「新型コロナの影響を受けた業界を政府が支援し、志望者を採用するゆとりが生まれるようにしてほしい」と望む。

「ロックダウン世代」。コロナ禍で教育や就職の機会を失った若者世代は、こう称される。緊急事態宣言の発出による採用停止や、面接のオンライン化は、就職活動に大きな影響を及ぼした。

内閣府が令和2年度卒業・修了予定の大学生らを対象に行った調査によると、8割以上の学生が就職活動で新型コロナの影響を受けたと回答。対面での企業説明会が中止になるなど情報収集が十分行えなかったと回答した学生は約6割、進んでいた選考が中止になった学生も約2割いた。

一方、コロナ禍を奇貨として普及したテレワークは働き方の多様化を進めた。内閣府が昨年11月に公表した生活意識・行動の変化に関する調査では、全国で約32%の企業がテレワークを導入。東京23区の企業では実施率が5割を超える。

「新型コロナは、自分の人生にとっていい決断をするきっかけになった」

今年5月、単身赴任先の東京都大田区から、妻の実家がある和歌山県紀の川市へ移り住んだ藤田大介さん(30)はそう言い切る。

大学卒業後、大手証券会社に入社し、営業に配属された。顧客との関係構築が重要な営業職だが、コロナ禍で在宅勤務が増え、対面でのやり取りは減少。従来通りの働き方ができなくなっていった。

「このまま会社に残っていていいのか」。焦りを感じ始めた頃、妻が妊娠、出産。家族とも会えない日が続く中、もともと事業を興すことに関心があった藤田さんは、移住して就農することを決意する。妻は収入の減少などから反対したが、収入モデルの資料を作って説得した。

現在は新規就農者向けの研修を受けながら、テレワークで営業代行の仕事を行い、収入を確保しているという。「家族がいると安心できる。これからは農業を通して、日本を盛り上げていきたい」(藤田さん)

コロナ禍がもたらした若者の就労の変化について、千葉商科大の常見(つねみ)陽平准教授(労働社会学)は「採用が縮小されたことで学生の喪失感が広がり、採用のオンライン化で孤独化や孤立化も進んだ。志望業界以外の企業に入社した若年層の早期離職が増加する可能性がある」と予想。一方で、テレワークの普及に伴い「地方企業は若者の価値観に合った働き方が提供できれば、人材確保の好機となりうる」とも指摘する。

新たな一歩を踏み出した藤田さんは言う。「決断して実行する力が、個人にも政治にも大事だと思う。政治には決断してほしいし、決断した人をサポートしてほしい」(長橋和之、深津響)

コロナ禍、ウクライナ情勢と諸課題が山積する中、迎えた今回の参院選。「混沌(こんとん)」の先に見えるものは何か。処方箋を探った。

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