決戦 七
本陣を据えた丘から降りた晴賢(はるかた)は四百年前の武士の王・清盛が建てた社の東廻廊に入る。今は、満潮に近く、厳島(いつくしま)大明神の廻廊や拝殿の下には、満々と青緑の海水がたたえられていた。
拝殿に入った晴賢は大鳥居の方を睨(にら)んでいる。
平舞台の中心に、内侍と呼ばれる巫女(みこ)たちが舞を披露する一段高い高舞台がある。舞台の向こうに、板の桟橋、火焼先(ひたさき)がある。火焼先の左右、そして奥に――炎上する数多(あまた)の小早、兵が乗りすぎて沈没する小早、焙烙(ほうろく)の猛攻を浴びる関船、同士討ちを起こす味方の舟があり……その奥に、火と黒煙、血飛沫(しぶき)、悲鳴をへだてて、大鳥居が哀し気に立っていた。
殺生を禁じ平らかな世を望む神が、戦(いくさ)を起こす武者どもに罰を下しているような凄(すさ)まじい光景だった。