塩野義飲み薬なるか「緊急承認」第1号 22日審議、ウイルス抑制効果に期待

塩野義製薬が開発する新型コロナウイルス感染症の治療薬について、厚生労働省の専門部会は22日、承認の可否を審議する。緊急時にワクチンや治療薬の迅速な実用化を目指す「緊急承認制度」が初めて適用されるかが焦点で、実用化されれば初の国産飲み薬となる。厚労省側には承認に慎重な意見がある一方、専門家からはウイルス抑制効果に期待する声が出るなど、審議の行方に注目が集まっている。

日本の現実に近い状況で臨床試験

塩野義の飲み薬は細胞内に入ったウイルスの増殖を抑える働きがある。軽症か中等症の患者向けで、感染初期に1日1回5日間服用する。販売名は「ゾコーバ」。中間解析結果をもとに審査できる「条件付き早期承認制度」の適用を求め2月に承認申請した。

厚労省に提出した約430人が対象の臨床試験(治験)データでは、オミクロン株に特徴的なせきや喉の痛み、息切れなどの症状改善を確認した。ワクチン未接種で重症化リスクのある患者を対象にした既存の米ファイザー製や米メルク製の飲み薬と異なり、ワクチン接種や重症化リスクの有無を問わずに治験しているのが特徴。手代木(てしろぎ)功社長は5月の決算会見で「この国で起きている感染状況に近い形でデータを取って提供するのが使命と考え、現実社会に近い形で治験している」と強調した。

ただ、事前に目標に定めた12症状の総合的な改善効果が明確に出ず、厚労省内には「データが不十分」として審査に慎重な意見がある。一方で、ウイルス量を減らす効果は確認されており、専門家の間には承認に前向きな声もある。

背景には、5月に医薬品医療機器法(薬機法)改正で緊急承認制度が成立したことがある。中間段階の結果でも安全性が確保され、一定の有効性が「推定」されれば医薬品を承認できる制度で、塩野義は5月末、緊急承認制度の適用を求めて早期承認制度から切り替えて申請した。

6月22日に開かれる専門部会で承認が了承されれば、数週間後に開かれる薬事分科会での議論を経て承認が決定するとみられる。

処方対象が広がる可能性

塩野義の飲み薬が期待されるのは、ファイザーやメルクが重症化リスクのある人を対象にしているのに対し、塩野義はリスクに関係なく治験を行っており、処方の対象が広がる可能性がある点だ。

また、ファイザー製は高血圧の薬など約40種類の薬との併用を避ける必要があり、使用が広がりにくくなっている。ただ、塩野義も動物実験でウサギの胎児に奇形を生じさせるリスクが明らかになっているため、メルク製同様妊娠している女性への使用を制限する可能性はある。

愛知医科大の森島恒雄客員教授は塩野義の治験結果で、感染力のあるウイルスが陰性になるまでの時間が偽薬より1~2日短縮していることに注目。「ワクチン接種者が8割を超え、症状の軽いオミクロン株の流行下という条件で意義のある結果といえる。こういった治療薬の実用化は、新型コロナをインフルエンザ並みの感染症に近づけることにつながる」と話す。

そのうえで、塩野義が現在1785人を対象にした最終段階の治験を実施中であることから「今回、緊急承認制度で承認されたとしても、世界から注目される治療薬だからこそ、今後、最終段階の治験で効果をしっかり証明していくことが重要になる」と指摘した。

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