主張

侮辱罪の厳罰化 反対の理由が分からない

国会議事堂=東京都千代田区
国会議事堂=東京都千代田区

侮辱罪を厳罰化する改正刑法が成立した。インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷対策で、罰則に懲役や罰金が新たに加わった。

厳罰化が抑止効果につながることを期待し、自民、公明、日本維新の会や国民民主党は賛成したが、立憲民主党や共産党は反対した。

憲法が保障する表現の自由が制約され、政治家らへの正当な批判を萎縮させる恐れがあるのだという。随分とおかしな議論ではないか。

新聞、テレビの報道から個人のSNSまで、政権への批判は満ちあふれているが、これらが侮辱罪の適用対象として検討された例を寡聞にして知らない。報道の側の自粛傾向を問題視する声もあるが、日本の報道はそれほど柔(やわ)なのか。そうではあるまい。

憲法が保障する「出版その他一切の表現の自由」は、その範囲を「公共の福祉に反しない限り」としており、無制限に野放しを認めたものではない。

国会の法改正による刑罰の設定はいわば国家の意志だ。侮辱罪の厳罰化は、著しく品性を欠き、他者を傷つけるものは許さないという意志の表明だと考えたい。

きっかけは一昨年、プロレスラーの女性がSNSで中傷され自殺した事件だった。投稿者への罰は科料9千円の略式命令で、あまりに軽すぎるとの批判から厳罰化を求める声が高まった。ネット空間にあふれる匿名の発信者による罵詈(ばり)雑言は書き写すこともためらうほど残酷で、放置できないと考えることは極めて健全である。

日本財団が一昨年、17~19歳の千人を対象とした調査では、75・5%がSNS上の中傷に対する法整備を「必要」と回答し、59・2%が中傷者への罰則を厳しくすべきだと答えていた。SNSの利用に慣れた若い世代も、問題意識を共有していた。

改正刑法には与野党の合意により、施行3年後に表現の自由を不当に制約していないか検証するとした付則が設けられた。同時に摘発状況や抑止効果についても十分に検証してほしい。

10月には「改正プロバイダ責任制限法」が施行され、1度の申し立てで裁判所が投稿者の情報を開示するよう事業者に命令を出せるようになる。

匿名は悪意の隠れ蓑(みの)とはならない。厳罰も待つ。そう周知徹底することが最も大事だ。

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