住宅や田んぼが混在する茨城県常総市を「水海道(みつかいどう)さくら病院」とドアに記した小型車が走る。久富護医師(45)は五月晴れの午後、認知症の高齢者が入るグループホームや96歳の女性宅などを、女性看護師の運転で訪問診療に回った。
「調子はいかがですか」。声をかけながら聴診器を当て家族らから近況を聞く。グループホームでは、転倒で骨折した70歳の女性が1カ月ほどの入院から戻っていた。管理者の男性は「認知症にはストレスが一番悪い。入院中も訪問診療で顔なじみの先生や看護師さんが病院にいるので、回復も早かった」と喜んだ。
病床数93。日本のどこでも見かける典型的な中小病院(200床未満)である水海道さくら病院は4年前、在宅医療を始めた。4人の医師がいまは70人ほどの患者を担当し、月1~2回訪問する。同市内に在宅医療を行うクリニックはあるが病院はここだけだ。
理想の在宅医療は「ときどき入院、ほぼ在宅」
厚生労働省の統計によると、24時間連絡・往診が可能など国の要件を満たす「在宅療養支援病院」に全国の中小病院の約27%、1546施設(令和2年)が届け出ている。過去15年間右肩上がりだ。中小病院の在宅医療提供がいずれ一般的なサービスになる可能性は高い。
背景には在宅医療を推進する国の誘導がある。医療界では、高齢患者の長期入院に頼る「なんちゃって急性期病院」の多さが問題視されてきた。病床数で世界有数の日本がコロナ禍で医療崩壊に直面した要因の一つともされた。病院の乱立を許したかつての医療行政の名残だが、国は病床削減に加え、診療実績をより重視する報酬体系に改めるなどの方法で中小病院の機能再編を促しているのだ。
病床を持ち専門医に相談できるといったクリニックにない特徴は、理想的な在宅医療の形とされる「ときどき入院、ほぼ在宅」の実現を助ける。在宅患者の容体が急変したり、家族が一時的に介護できない状況が生じたりしても、在宅と入院の切り替えが容易だ。