朝晴れエッセー

5月月間賞は「新聞少女」

5月月間賞を選考する玉岡かおるさん(左)と門井慶喜さん=大阪市浪速区(前川純一郎撮影)
5月月間賞を選考する玉岡かおるさん(左)と門井慶喜さん=大阪市浪速区(前川純一郎撮影)

朝晴れエッセーの5月月間賞に、三原幸枝さん(81)=東京都調布市=の「新聞少女」が選ばれた。昭和30年頃、家業の新聞販売店の配達を手伝うことになった筆者。中学から高校卒業まで、学校に通いながら続けた。重い新聞を背負ったり、近道のためお墓近くの道を走ったりといった経験に基づいたエピソードに臨場感があり、高く評価された。選考委員は作家の玉岡かおるさんと門井慶喜さん、酒井充・産経新聞大阪文化部長。

酒井 玉岡先生が◎で門井先生と私が〇の「新聞少女」からいきましょう。

玉岡 若年層の貧困が今も問題になっていますが、当時は世間が優しかった時代で、本人たちも頑張っている様子が目に浮かび、胸を打たれました。恨むのでなく、前向き過ぎず。筆者も前向きで、よかったと受け止めているようです。一時代を書きつつ、自分の人生も書けている。読者に活力を与えるいい作品でした。

門井 何と言っても面白かったのは、近道のためにお墓を通るというエピソードです。臨場感があり、経験しないと書けませんね。現在のビニールにくるまれた新聞の話から、昔の自身の話になり、現代の新聞の話に戻るかと思いきや、卓球の話になるのがまた面白い。唐突なようで唐突でない。今、卓球ができているのは、このときの新聞配達で足腰をきたえたおかげですからね。

酒井 昭和30年頃のお話ですね。記事を書く立場からすると、こういった人たちのおかげで新聞は読まれていると改めて感じます。届けてくれる人がいる。しっかりと記事を書かねばと、身が引き締まる思いです。では、門井先生は◎で私が〇の「いつも相手がいた」に参りましょう。

門井 息子さんを亡くし、夫を亡くした。その後に愛犬も亡くしますが、息子さんや夫のときよりも落ち込んだという書き方をされています。しかし、これは別れの順番によってこうなったのだと思います。

一緒に生きてゆく相手が本当にいなくなってしまったんだなあ、と思わせたところで、最後に人や動物でなく「植物たちを相手に」とくるのが、どんでん返しに近い驚きがありました。前向きに生きていこう、というよくある終わり方ではありますが、植物が効いているので非常に説得力があります。何の種類か書かず、単に植物とあいまいにしているところに決意を感じます。

玉岡 逆縁なので相当苦しまれたと思います。前向きになろうと努力しているのは伝わりますが、つらいですね。

酒井 私が◎で玉岡先生が〇の「ちいさな寄り道」です。私も歩くのが好きで、いつもと違う道を通るという、ちょっとした工夫で新しい世界があると感じますね。新型コロナウイルス禍で遠出ができない時期が長いこともあって共感しました。続いて、門井先生と私が〇の「初めて父と握手」を。

門井 亡くなった父の追憶の作品ですが、あえて亡くなったことは書いておらず、思い出だけを書いているんですね。真ん中あたりの「見送りは、元気な頃は~変わっていった」という部分は長いスパンの話だと思いますが、文章は短い。しかし父が衰えていく様子がよく伝わります。亡くなったことを書かず、一度きりの握手だったとすることで、いなくなってしまったことが分かります。慎み深い文章だと思います。

玉岡 朝晴れエッセーは600字程度なので、もう少し分量があってもよかったかなあと思います。

酒井 玉岡先生が〇で門井先生が△の「人手不足」をお願いします。

玉岡 コロナ禍で人手が足りなくなった息子が経営するカフェを親夫婦が手伝うことになった話です。子供がいくつになっても、親は大変やなあと(笑)。子供にとっては最後に頼るのは親なんですね。私も今、出産や育児で大変な娘をバックアップ中で、よく分かります。

門井 コメディー系の作品で、何と言っても真ん中あたりで出て来るメニューのスイーツの名前の圧倒的な羅列です。チーズうんぬん、タピオカうんぬん。面白く、次点をつけました。

玉岡 『父と「シェルブールの雨傘」』もいい作品でした。父と娘の話で、雨と雨傘、気難しいお父さんの映像が浮かびました。父と同じ気難しい少女になったと自己分析もされていて、そんな気難しい者同士が映画を一緒にみた。どんな感想を抱いたのか、いろいろ思いが広がりました。何がきっかけで一緒に映画に行くことになったのか、ほしい情報でしたね。

酒井 それでは、月間賞を決めたいと思います。

門井 3人が評価していますし、「新聞少女」がよろしいかと思います。

玉岡 いい作品ですものね。

酒井 それでは、月間賞は「新聞少女」にいたします。

受賞の三原さん「昨日のことのように思い出す」

初投稿の作品が掲載されただけでもありがたいことでした。それが月間賞に選ばれるなんて、全然思ってもいなかったことでうれしいです。

雨の日、ぬれないようビニールに包まれて配達された新聞を見て、昔のことを思い出して書きました。作中の村とは、今は合併して広島県東広島市になったところです。父は遠いところを自転車で、私は近場を歩いて配りました。

書き出すと、昨日のことのように思い出されてびっくりするくらい。村の情景も浮かび、懐かしくなりました。

ぼけないためのサプリメントと思って新聞は今も読んでいます。書くこともいい効果があると期待しつつ、これからも作品を書いていきたいです。




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