地球や宇宙とともに未解明な部分が大きな人体。なかでも大腸の活動を支える細菌はもっとも解明されていないもののひとつとされる。そこで大腸から排出された便を手がかりに病気の早期発見や生活習慣の改善を目指すサービスがベンチャー企業の間で広がっている。便に宿る細菌に体調回復へのヒントがあり、有望な市場として「茶色いダイヤ」ともいわれる。
サイキンソーは都内に解析拠点開設
理化学研究所認定ベンチャーのサイキンソー(東京都渋谷区)は、同江東区に大腸内の細菌の解析拠点を開設した。同社は平成27年、郵送対応型の腸内フローラ(細菌叢=さいきんそう=)検査キット「Mykinso(マイキンソー)」の販売を開始。キットで便を採取し同社に送ると、解析した結果を通知する。
今年5月末現在の累計検査件数は前年の2倍にあたる6万件に達した。これまでは大阪大学微生物研究所(大阪府吹田市)で解析していたが、東京の拠点開設により、検査能力が増設前の2.5倍となる月1万件となった。
サイキンソーの沢井悠最高経営責任者(CEO)は14日、東京都内の記者発表会で、8月中にオンラインで過去の検査結果が確認できるようにすると説明したうえで、「早ければ来年にも企業の健康診断結果との連携により、生活習慣改善指導といった新たなサービスの開発にもつなげたい」と語った。
生活習慣の改善や病気の発症リスク判定も
サイキンソーは、理化学研究所で約48年にわたり腸内細菌の研究に携わった辨(べん)野義己名誉研究員の研究成果をもとに設立された。辨野氏は研究成果を社会に還元したい気持ちは強かったが、事業化のノウハウがなかった。一方、沢井社長は平成25年、数百~数千ものDNA(デオキシリボ核酸)分子を同時に配列決定できる「次世代シーケンサー」という技術を使って腸内フローラを検査するビジネスを考えていたことから、同年に両者が会い、事業構想を練り上げた。
腸内フローラとは細菌の集団のこと。辨野名誉研究員は、「採取された便をてがかりに腸内フローラの状態を検査すれば、個人の体質や生活習慣、さらには特定の病気、例えば、糖尿病、肥満、高血圧、大腸がん、便秘などの発症リスクも調べられる」と話す。
サイキンソー以外にも、腸内細菌をテーマにしたサービスを手がける会社としては、メタジェン(山形県鶴岡市)とAuB(オーブ、東京都中央区)も知られている。
社会保障費や医療費削減にも寄与
メタジェンは慶大先端生命科学研究所の研究成果をもとに平成27年に設立。便検体から腸内細菌の遺伝子と腸内代謝物質を解析する独自技術を開発し、令和元年から医療機関向けの腸内環境評価サービスを開始した。6月1日からは腸内環境を手がかりにした減量支援プログラムを企業向けに始めた。これにより個人の体質にあった減量を指南する。
AuBは平成27年、サッカー元日本代表の鈴木啓太氏が設立した。運動選手500人分の腸内環境のデータを収集。そのデータを生かし、健康食品などを販売している。6月1日には京セラなどを引受先とする第三者割当増資で3億円を調達。この資金をもとに、京セラと共同で、便の臭気から腸内環境の傾向を予測する技術の開発に乗り出した。
厚生労働省のホームページなどによると、腸内には少なくともビフィズス菌や悪玉菌など解明されたものだけで少なくとも1000種類100兆個あるとされる。これらの腸内細菌は人によって生息状況が異なる。いわば「ビッグデータ」にもなりうるものだ。このビッグデータの活用により、将来は個別化(オーダーメード)医療が普及し、増え続ける医療費や社会保障費の削減にも寄与しそうだ。