急激な円安に歯止めがかからない。東京外国為替市場の円相場が一時、約23年8カ月ぶりの安値水準となる1ドル=135円台まで下落した。
主要通貨に対して円が売り込まれる独歩安である。かつてのように円安を好感して株価が上がるようなこともなく、むしろ「日本売り」の様相が色濃くなっている。
新型コロナウイルス禍で傷んだ経済が回復しつつある中で、最大限の警戒が必要な局面だろう。
急激な円安は輸入価格を押し上げ、ウクライナ危機で加速するエネルギーや食料の価格高騰とも相まって、幅広い品目の値上がりをさらに助長しかねない。
日本銀行の黒田東彦総裁が「家計の値上げ許容度も高まってきている」と発言し、すぐに撤回したのも当然だ。消費者は賃上げを実感できておらず、生活必需品の物価高で苦境に立たされている。
政府・日銀は景気悪化を避ける方策に万全を尽くさなくてはならない。中小企業や困窮者への支援を含む4月の緊急物価高対策の着実な執行はもちろんだ。円安がもたらす負の側面を見極め、対策強化も柔軟に検討すべきである。
問題は、為替市場の円安基調を反転させられる即効性のある対策を見いだしにくいことだ。
今の円安は主に日米間の金利差に起因する。金融引き締めに転じた欧米と違い、コロナ禍からの回復が遅い日本は金融緩和を維持せざるを得ない。それが円を売り金利の高いドルを買う動きにつながった。この構図が変わらなければ円安基調が続く可能性がある。
政府・日銀は「必要な場合には適切な対応を取る」との声明文を出した。円買いドル売りの為替介入を排除しない考えも示唆している。だが、日本の都合による協調介入に欧米の理解は得にくく、実施できても効果は限られよう。
本質的に考えるべきは、為替などに左右されにくい経済構造の構築である。例えば資源高や円安の影響をもろに受ける化石燃料への依存を減らすのも一つだ。それには原発を基幹電源としてもっと活用することが有効である。
円安の恩恵を生かせるよう国内産業の輸出競争力を高めることも不可欠だ。労働生産性や競争力の低さが「日本売り」を強めている。折からの円安を奇貨として積年の課題である産業構造の転換を図らなくてはならない。