近鉄運賃値上げに奈良県知事が異議 公聴会で異例の意見陳述へ

新型コロナウイルス禍による経営環境の悪化を理由に、近畿日本鉄道が国に大幅な運賃値上げを申請したことに、奈良県の荒井正吾知事が猛反発している。「サービス改善なしに負担だけを求めるのか」とかみつき、7月に開かれる公聴会に自ら出席し、運賃改定に〝異議〟を申し立てる構えだ。「県民の代表」と意気込む荒井氏だが、周辺首長からは他私鉄とは違う近鉄の事情に理解を示す声も。改定の行方は果たして-。

近鉄は4月、全線の普通運賃を来年4月から平均17・2%値上げする運賃改定を国土交通相に申請。認可されると、例えば近鉄奈良-大阪難波は110円増の680円に、通学定期では近鉄奈良-橿原神宮前(半年間)が2590円増の3万570円となる。

「毎日十数万人の県民が利用しており、値上げとなれば、県民の負担増は(年間)約60億円に上る。納得できる説明をしてほしい」

近鉄の申請を受けて、荒井氏は5月の定例記者会見でこう憤り、値上げについて話し合う国交省運輸審議会の公聴会に自ら打って出ると息まいたのだ。

鉄道運賃の改定は、同審議会の答申を経て国交相が判断する。その審議会が利害関係者らから意見を聴く公聴会に、地元自治体の首長が出席するのは極めて異例。同省によると、少なくとも過去10年間で首長が意見陳述した例はない。

元運輸官僚の荒井氏はこうした現状についても「今までの公聴会は形骸化していた」と批判。「鉄道事業には地域との共存共栄に向けた対話が必要。前向きな対話を促し、一石を投じたい」と覚悟をにじませる。

公聴会に先立って県が公表した公述書では、他の関西私鉄も軒並みコロナ禍の影響を受ける中、近鉄のみが運賃値上げを申請したことに疑問を投げかけた。

公述書では、1キロあたりの料金を阪急電鉄と比較。阪急の京都河原町―大阪梅田(約48キロ、400円)が「8・3円」なのに対し、値上げ後の近鉄奈良―大阪難波(約33キロ)では「20・6円」と、阪急の倍以上になると指摘した。

さらに「鉄道部門の従業員1人あたりの営業収益額」も約2150万円で、関西大手私鉄の中で最も低いとするデータを提示。特急への投資に比べ、一般車両の更新やバリアフリー化、県内沿線への開発投資は十分でないと主張している。

「運賃の値上げには『納得感』が必要だ」と強調する荒井氏。非効率な経営のしわ寄せを、乗客に転嫁しているのではないかという不信感が背景にある。

もっとも近鉄にも、言い分はある。私鉄の中で営業路線は最も長く、駅数も最多。沿線も人口密度が低い山間部や田園地帯が多いため、効率的な運行が難しいという構造的な問題を抱えている。

設備投資では、一般車両約1400両のうち昭和40年代に製造されたものが約450両に上り、老朽化に伴う更新も避けられない状況となっている。

こうした事情を踏まえ、沿線首長からは同情論も出ている。

奈良県天理市の並河健市長は「持続可能な公共交通を守るために、率直な意見交換を行う関係が求められる」とする一方で、「沿線の人口密度を考えると、近鉄は地理的に不利な点もある。一方的に非難しては建設的な議論にならない」と話す。

奈良市の仲川げん市長も「値上げは喜ばしいことではないが、放漫経営をした結果ではない」と指摘。荒井氏の言うような投資をすればさらなるコスト増につながるため「県の主張は矛盾しているのではないか」と首をかしげた。

近鉄は「将来にわたり公共交通の使命を果たすために、不断の経営努力を前提とした上で運賃改定を申請した。どうかご理解いただきたい」とコメントした。(秋山紀浩)

会員限定記事会員サービス詳細