岸田文雄政権は本当に財政健全化に取り組む意思があるのか。その覚悟に疑念を抱かざるを得ない。先に閣議決定した経済財政運営指針「骨太の方針」のことである。
「財政健全化の『旗』を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む」とは明記した。
それなのに、令和7年度に基礎的財政収支(PB)の黒字化を目指すという目標を記載しなかったのが理解できない。
政策を裏付ける財政のありようや健全化の道筋を具体的に示すのが骨太の方針だ。現に存在する目標すら書かずに「骨太」といえるのか。これでは取り組みが後退したとみられても仕方あるまい。
既定路線だから書かなかったとする政府の説明は説得力を持たない。背景にあるのは、PB黒字化目標に批判的な自民党内の積極財政派への配慮である。
与党に異論があるとしても目標を覆い隠すのはおかしい。むしろ政府は目標の是非を明確にすべきだ。その上で見直す必要があるなら、妥当な目標にするため、どう検討するかを示すべきである。
懸念するのは、腰の定まらない岸田政権の対応が、参院選を控えた与党による野放図な歳出圧力を誘発しかねないことだ。
骨太には「現行の目標年度により、状況に応じたマクロ経済政策の選択肢が歪(ゆが)められてはならない」と記された。来年度予算編成は、歳出改革努力の継続を掲げた昨年の骨太も踏まえるとしているが、これも政策の選択肢を狭めないという条件付きである。
新型コロナウイルス禍のような非常時にPB黒字化に固執し、必要な措置をためらってはならないのは当然だ。防衛費など優先的に拡充すべきものもある。だからといって健全化目標が有名無実となるようでは元も子もない。
そもそも、歴代政権が目標達成にどこまで本気だったのかも疑問である。首相は1月、現行目標を変えない考えを示したが、楽観的な見通しに基づくPB黒字化が現実離れしていることは度々指摘されてきた。大切なのは、実現可能な目標を示し実行することだ。
欧米ではコロナ対策で巨費を投じる一方、増税を含む財源確保などの取り組みも進めている。日本の優先課題が経済の立て直しにあるとしても、財政悪化を放置していいことにはならない。政府・与党は責任ある対応をすべきだ。