近づく大阪・関西万博 野鳥の「いのち」と開発に揺れる夢洲

夢洲内の湿地帯に飛来するコアジサシの群れ=昨年7月(大阪自然環境保全協会提供)
夢洲内の湿地帯に飛来するコアジサシの群れ=昨年7月(大阪自然環境保全協会提供)

「いのち」やSDGs(持続可能な開発目標)を理念に掲げる2025年大阪・関西万博の会場となる人工島・夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)で、自然との共生が課題に浮上している。湿地帯を有する夢洲は「野鳥の楽園」とされるが、環境保護団体は万博に向けた地盤改良工事に伴い、貴重な生態系が損なわれると主張。開幕まで3年を切り、整備主体の大阪市も対応を迫られる。

セイタカシギ、コアジサシ、ツクシガモ…。いずれも環境省のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類(絶滅の危険が増大している種)に指定される希少な渡り鳥だ。産卵や羽休めで大阪湾に浮かぶ夢洲に飛来する。

夢洲で確認されたセイタカシギのつがい=5月、大阪市此花区(日本野鳥の会大阪支部提供)
夢洲で確認されたセイタカシギのつがい=5月、大阪市此花区(日本野鳥の会大阪支部提供)

公益社団法人「大阪自然環境保全協会」と日本野鳥の会大阪支部によると、今月5日に抱卵(ほうらん)中のセイタカシギを確認。同協会などは9日、大阪港湾局への緊急要望として、ひなが育つ7月下旬ごろまで営巣地周辺で工事を一時中止することなどを求めた。

夢洲は昭和52年、市の廃棄物や建設残土の処分場として整備が始まった。埋め立てに海底の土が使われ、海水を含む土壌はカニや貝類などエサが豊富なこともあり、野鳥が好む湿地帯を形成した。

同協会によると、平成の初めには野鳥の飛来が見られた。液状化層の存在が判明した万博会場予定地(約155ヘクタール)のうち、地盤改良工事前まで湿地帯だった区域(約100ヘクタール)で絶滅危惧12種を含む112種類の飛来を確認した。

ただ工事は急ピッチで進む。大阪港湾局によると、区域の大半は埋め立てられ、残る区域でも順次工事が始まる予定だ。工事が終われば万博の運営主体「日本国際博覧会協会」が主導する形で、来年度にもパビリオンの建設が始まる。

「希少な野鳥の成育地を失うことになれば『いのちをつなぐ』という万博の理念に反する」。大阪自然環境保全協会などは5月、市との協議の場で野鳥の成育環境の保全を求めた。

夢洲に飛来するツクシガモ(大阪自然環境保全協会提供)
夢洲に飛来するツクシガモ(大阪自然環境保全協会提供)

港湾局はこれまでも野鳥の営巣のために予定地外に保護エリアを設置し、産卵時は周辺エリアを含めて立ち入り禁止にしてきた。松井一郎市長は「何とか共存できるように対応したい」と一定の理解を示す。

市側は今後、野鳥の生息環境に配慮した開発計画案を保護団体に提示する方針だ。人工干潟の整備案も検討されており、日本国際博覧会協会は「可能な限り、万博の理念に沿った開発を進めたい」としている。(土屋宏剛)

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