新型コロナウイルス禍前まで全国を上回る勢いでインバウンド(訪日外国人客)が増えていた関西では、インバウンド受け入れ再開による消費回復に期待が高まっている。コロナ禍前の水準に回復するには時間を要するが、観光入国が本格化すれば、円安も追い風になり、関西経済の活性化を促す可能性もある。
「待ちに待っていた。感染症対策に慎重に取り組み、訪れる方に安心して召し上がっていただきたい」
お好み焼きチェーンを展開する千房ホールディングス(大阪市浪速区)の中井貫二社長はこう話す。大阪・ミナミの店舗ではコロナ禍前までインバウンドが来店者の7~8割を占めており、コロナ禍で売り上げは1割未満に落ち込んだ。「日本は世界でも屈指の人気観光地。訪日客の増加に不安はない」
回転ずし大手、くら寿司も受け入れ再開を見越した準備を進めてきた。大阪市内の店舗外観には4月、インバウンドを意識して浮世絵をモチーフにした巨大壁画をデザイン。広報担当者は「インバウンドがいつ来店されても不備のない態勢は整えている」とする。
大丸心斎橋店(大阪市中央区)も5月に従業員に対し、外国人向けの接客マニュアルの再教育を行うなど、受け入れ態勢を整えてきた。
ホテルグランヴィア大阪(大阪市北区)は6月中をめどに、感染対策を呼びかけるホテル内の掲示物などの多言語化を進めている。「感染対策は各国によってさまざまだ。日本での感染予防を知らせ、守っていただくため」という。帝国ホテル大阪(同)も「インバウンド復活に備え、サービスの場面に応じた英語研修を続けている」(広報担当者)と説明する。
コロナ禍前、関西のインバウンド消費は他地域と比べても活況を呈していた。令和元年、インバウンドによる関西での消費額は1兆2255億円に上り、日本全体の4分の1を占めた。平成26年から令和元年にかけての宿泊者数の増加率は関西が24・9%、全国平均20・9%を上回っていた。
関西経済同友会の角元(かくもと)敬治代表幹事も「関西経済の本格的な回復を展望する上でインバウンド需要の復活は重要な要素だ。制限はあるが、ビジネス客を含む国際的な人の往来の活発化に向けた着実な前進だ」とコメントする。
富裕層の個人旅行客回復がカギ
一方で、コロナ禍前のインバウンド消費を本格的に取り戻すには、入国者数の制限撤廃や、個人旅行客の受け入れ再開が待たれる。日本政策投資銀行関西支店企画調査課の樫村直樹課長は「インバウンド消費を伸ばすためには富裕層の個人旅行客が欠かせない。本格的な増加にはまだ時間を要すると思われるが、それまでに関西の観光地としての魅力を高め、発信するための準備が必要だ」と話す。
また、訪日外国人客が専門の旅行会社、フリープラス(大阪市中央区)の中林凛太郎・旅行事業部マネージャーは関西国際空港の国際便の発着率が成田国際空港に比べて低いとして「訪日観光を回復させるには、フライトの増便が重要」と指摘する。
関空と京都方面を結ぶ特急「はるか」を最盛期は1日60本運行していたJR西日本は昨年5月、運行本数を12本まで減らした。今年3月のダイヤ改正で24本に戻し、7月からは38本とする。担当者は「1日60本運行できる車両数がある。今後の運行本数については利用状況をみながら検討することになる」と話した。
関空と大阪市内を結ぶ特急「ラピート」を運行する南海電気鉄道もコロナ禍前までは1日66本を運航していたが、一時期、7割以上を運休とした。今年5月からは1日48本の運転にダイヤを改正している。担当者は「今後のダイヤについては利用状況をみて検討したい。以前の状況に戻ることを願うばかり」と語った。
いまだにインバウンド本格回復の見通しはたちにくいものの、アジア太平洋研究所の稲田義久研究統括は「インバウンドの戻りが少しずつ増えていくなら、関西経済の見通しは明るい。円安は好材料だ」と話して、関西地域での高価な買い物や食事の需要も高まり、経済全体が活性化すると期待している。
あべのハルカス近鉄本店(同市阿倍野区)の担当者は「ラグジュアリーブランドも強化して受け入れ態勢を備えているので、インバウンドにぜひ戻ってきてほしい」と話していた。(井上浩平、田村慶子)