鉄道ジオラマに肉球パンチ 食堂の廃業危機を救った猫の手

店内のジオラマを走る列車の模型にパンチするネコ=大阪市天王寺区(前川純一郎撮影)
店内のジオラマを走る列車の模型にパンチするネコ=大阪市天王寺区(前川純一郎撮影)

山の向こうから現れた巨大ネコが家をなぎ倒し、走る列車を「ネコパンチ」でたたき落とす-。そんな特撮映画さながらの光景が、鉄道模型を展示する大阪市天王寺区の飲食店で堪能できる。店は新型コロナウイルス禍で廃業目前だったが、店の近くで弱っていたネコを保護したことで一変。店内で遊ぶ様子が交流サイト(SNS)で反響を呼び、客足が戻ったのだ。「ネコの恩返し」ともいえる展開を受け、店側も新たな一歩を踏み出した。

保護ネコがもたらした斬新コラボ

JR寺田町駅から徒歩で約2分。「ジオラマ食堂」の店内に入ると、大型の鉄道ジオラマの上にどっかりと腰を下ろすネコたちの姿があった。自由奔放にジオラマの上を歩き回り、走る列車を見つけると、勢いよく前足ではじく。「かわいい」「またやっちゃった」。来店客は笑顔を浮かべながら、スマートフォンで一挙一動を撮影していた。

友人と訪れた同市の主婦、新井美香さん(53)は「SNSでネコたちに一目ぼれしてきた。ジオラマとネコという組み合わせが斬新で、見ていて飽きない」と話した。

きっかけは1匹の子ネコ

新型コロナ禍が転機だった。初めての緊急事態宣言の影響で、令和2年3~5月に店を休業。同年6月から営業を再開したが客足は戻らず、廃業も覚悟するようになった。

そんなとき、店舗の関係者が店の近くで瀕死(ひんし)状態だった一匹の子ネコを見つけ、オーナーの寺岡直希さん(58)に引き渡した。「シンバ」と名付けて店で保護していると、その様子をうかがいに、母ネコと子ネコ3匹が店前に現れるように。「家族がバラバラに暮らすのはかわいそう」(寺岡さん)。計5匹を店で保護することに決めた。

やがて元気を取り戻したネコたち。いつしかペットケージから抜け出し、店内のジオラマの上で遊ぶようになった。

無残にもネコたちに破壊されたジオラマを目にし、寺岡さんは「最初はどついたろかと思った」。しかし、次第に別の感情もわくようになった。「ネコがこれだけ楽しんでくれるんだったら、また直したらええか」

店内のジオラマで遊ぶネコたちを撮影する来店客ら=大阪市天王寺区(前川純一郎撮影)
店内のジオラマで遊ぶネコたちを撮影する来店客ら=大阪市天王寺区(前川純一郎撮影)

その様子を自虐の意味も込めてSNSで公開すると、映像はネットで爆発的に拡散した。ネコ好きを中心に店には次々と予約が入るようになり、鉄道マニアの男性中心だった客層は一変。老若男女問わず多くの人が全国から訪れるように。寺岡さんは「ネコを救ったつもりが、逆に救われた」としんみりと語る。

保護したネコは約160匹

廃業の危機を救ってくれたネコに恩返しをしたい―。そんな思いから、今は保護ネコの譲渡活動にも力を注いでいる。

店の2階の一室を保護ネコ施設に改装し、譲渡会を定期的に実施。昨年10月以降、保護した約160匹のうち100匹以上を里親に譲渡した。施設には監視カメラを設置した上で夜勤のスタッフ2人を常駐させ、保護ネコの状態を24時間体制で見守っている。

保護するネコの多くが捨てネコや野良ネコだ。中にはカッターで切られたり、ハンマーで頭蓋骨を割られたりする虐待を受けた形跡があるネコもおり、寺岡さんは「戦争やコロナ禍で人々の心がすさんでいると感じた」と話す。

今の最大の目標はネコの殺処分ゼロだ。シンバたちに導かれるように踏み出した新たな活動。寺岡さんは「一つでも多くの命を救い、お客さまにネコを通じて笑いと癒やしの場を与えていければ」と力を込めた。(木下未希、中井芳野)

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