近ごろ都に流行るもの

「まちの薬局」競争激化で新業態 野菜売る薬剤師、女性客を開拓

東京産野菜を販売する管理薬剤師の高須賀洋徳さん。健康効果、調理法などもアドバイス=東京都世田谷区の「薬局ランタン」(重松明子撮影)
東京産野菜を販売する管理薬剤師の高須賀洋徳さん。健康効果、調理法などもアドバイス=東京都世田谷区の「薬局ランタン」(重松明子撮影)

緑の茎が揺れるニンジンを手に「葉は天ぷらがおすすめ」という男性が白衣姿。なぜ? 「実は薬剤師なんです」。野菜販売が名物の〝まちの薬局〟は、カフェ風のつくりに健康・美容食品も並び、LINE(ライン)による服薬期間中のフォローなどの新業態を打ち出している。背景にあるのは、全国6万軒を超える薬局の過当競争だ。処方薬がコンビニで受け取れるようになったり、大手ドラッグストアが調剤に参入したり。小規模店には厳しい時代。個性と親身さで生き残りをかけている。

「病人扱いされなくていい」

東京都世田谷区、京王線千歳烏山駅南口すぐの「薬局ランタン」は、一見すると何屋さんかわからない。

毎平日の昼下がりに入荷する野菜は、調布市や小平市など都内農家の産物。手に取るとズッシリとみずみずしい採れたての小松菜や大根、ルッコラ…多種多様だ。「鮮度がいいから味もいい。トマトなんかを近くの娘の家に持ってゆきます」と、数駅先に住む女性(69)。

管理薬剤師の高須賀洋徳・薬局長(37)は、「あまり流通しない珍しい野菜も入る。私も栄養や料理法を日々勉強中です。野菜を入り口にお客さんとの関係を築いていきたい」。

服薬指導する高須賀洋徳さん(重松明子撮影)
服薬指導する高須賀洋徳さん(重松明子撮影)

薬剤師も大変だが、厚生労働省は薬剤師業務の「対物(薬)」から「対人」中心への転換を進めており、コミュニケーション力がものをいう時代となった。来店者数は1日あたり、野菜購入が30~40人、処方箋利用が30~50人。女性が7~8割を占めている。

野菜摂取量を判定する装置を置いてヘルスケアの接点を増やしているほか、店内にはくつろげるテーブル席もあり、「冷え」「ダイエット」「腸活」「婦人系」などの困りごとに応じた食品やサプリメントが並ぶ。4月から、アレルギー患者の需要が高い米粉パン・菓子の販売も始めた。

薬局ランタンは、昭和12年から都内で調剤薬局を展開する田辺薬品(本社・東京都府中市)の新業態として、1年半前にオープン。

「利便性では大手にかなわないが、薬局を『信頼ビジネス』ととらえれば小さくても勝てると思っている。病気の有無に関わらず地域の頼れる存在になりたい。手厚いアフターサービスで生き残っている〝まちの電気屋さん〟の薬局版をイメージしています」

創業者の祖父から3代目、田辺正道社長(50)が語った。最寄り駅徒歩圏内に大手ドラッグストアなど薬局が10軒以上乱立する激戦区。「顔と顔が見える関係づくりを、愚直に積み重ねていきたい」

昨夏から利用している主婦(44)は「病人扱いされない、明るい雰囲気に興味をひかれた。薬を待つ間に野菜も買える」と気に入っている。プレ更年期の不調や消化器系疾患で複数の薬を服用し、ラインによるフォローを利用。「定型文ではない副作用や体調を気遣う言葉に、安心感が持てる」と話す。精神不安を抱える患者からは「スマホの方が相談しやすい」との声もあり、128人の患者が店からのラインによる服薬フォローを受けている。

一昨年の医薬品医療機器等法改正で薬局の定義が見直され、調剤後も患者の服薬指導・経過観察を続けることが薬局の義務となった。これにより、ラインやアプリで患者をフォローする仕組みが広がっている。

薬局ランタンが導入している「ポケットムスビ」は、「利用患者数が昨年同時期の14倍に伸びた」と展開するカケハシの広報。鹿児島県奄美大島の薬局では導入1カ月で登録者200人を突破するなど「実は過疎地に勢いがある」とも。

大手のウエルシア薬局は調剤併設の全1695店(2月末現在)で、オンライン服薬指導サービス2社による「クロンお薬サポート」と「ファームス」を導入。ニーズ拡大を見越し、調剤分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するという。

病院前の立地勝負の時代から、積極的に選ばれる薬局へ。スマホ越しの店外競争も激しさを増している。(重松明子)

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