大人に代わって日常的に家事や家族の世話をする「ヤングケアラー」の早期発見が社会的課題となっている。深刻な状況下の子供の多くにケアラーとの自覚がなく、問題が潜在化したまま学業や就職に影響が出る恐れがあるためだ。中学生の約17人に1人、小学生の約15人に1人が該当するとの調査結果もあり、国や自治体も支援を模索するが、打開策は見いだせない。専門家は「社会全体でヤングケアラーを生み出す背景に目を向け、支援を考えるべきだ」と訴えている。
「ここで過ごす時間が1週間の癒やしです」。5月中旬、大津市の民家に拠点を置くNPO法人「こどもソーシャルワークセンター」で、無邪気な表情を見せた高校3年の男子生徒(18)はヤングケアラーだ。家では「仕事が忙しい」という両親に代わり、小学1年と中学2年の妹の世話をたった1人で担っている。
生活のため高校に通いながら飲食店でのアルバイトを続ける。1カ月で10万円以上を稼ぐが、大半を親に渡すため、手元に残るのはわずか1万円。その1万円もアルバイトへの交通費などに消えてしまう。
男子生徒には「いつかゲームを製作する仕事に」との目標がある。将来のため大学受験を考えているが、日中はどうしても家事やアルバイトに追われがちだ。「深夜2時に寝て、朝4時に起きる生活がずっと続いている」。睡眠時間はわずか2時間。厳しい環境の中で夢を追いかけている。
家庭内に複雑な事情を抱えた子供たちに居場所を提供する、こどもソーシャルワークセンター。ネグレクト(育児放棄)や貧困に直面し、心に傷を負ったままのケアラーも珍しくなく、男子生徒のように心のよりどころとなっている。
父子家庭で育った高校1年の女子生徒(15)にとっては、毎日の掃除や洗濯、料理は当たり前。受験生だった昨年は、勉強と家事の両立に悩み、ストレスから自傷行為を繰り返すようになった。「(父親は)ずっと私のことをほったらかし。何のために生きているのか分からなかった」とこぼす。
国は昨年、初のヤングケアラー実態調査の結果を公表。中学生の5・7%(約17人に1人)、高校生の4・1%(約24人に1人)がケアラーに該当することが判明した。今年4月には小学6年を対象とした調査が公表され、6・5%(約15人に1人)が「世話をしている家族がいる」と答えている。
認知度向上が鍵
別の課題も浮き彫りになった。昨年の調査で「ヤングケアラーという言葉を聞いたことがない」と答えた生徒は全体の8割。ヤングケアラーの認知度に加え、本人に自覚がなければ表面化しづらいという側面も深刻といえる。
こどもソーシャルワークセンターの幸重(ゆきしげ)忠孝理事長は、家事や家族の世話が日常となっている子供は「(困難な状況下でも)自身がヤングケアラーだと理解はしていない」と強調。そのため子供自身が、自治体などの相談窓口へ悩みを打ち明けることがほとんどないという。
センターの元職員の男性(25)は、家族の世話や貧困を理由に希望していた大学への進学を諦めた過去がある。「大学に行けなくなり、ようやくおかしいと感じるようになったが、それまでは何ら(生活に)違和感はなかった」。周囲に助けを求めようと声を上げたことは一度もなかったと明かす。
国や自治体はヤングケアラーの早期発見に向け、学校などへの研修や、交流サイト(SNS)を活用した悩み相談の体制整備、実態調査の推進などを掲げる。ただ自治体調査の場合、対象が学校や支援機関にとどまり、当事者本人にアプローチしないケースもあり、幸重理事長は「これでは現状が見えてこない」。またケアを理由に学校へ行かず、社会から孤立している子供の把握も課題として残されている。
家族介護支援に詳しい立命館大の斎藤真緒教授(家族社会学)は問題の根本的解決に向け、「ケアラー本人の支援に加え、家族へのケアもセットで行われなければならないが、そうした議論は尽くされていないように感じる。対象の家族に関する情報を一括的に集積し、本人や家族が必要とする支援にワンストップでつなげる仕組みが必要だ」と提言。周囲の気づきも大切だとした上で「調査などをきっかけとした啓発を通じ、ヤングケアラーの認知度を上げ、子供が相談しやすいような環境づくりも進める必要がある」と訴えた。(清水更沙)
ヤングケアラー 「YOUNG(若い)」と「CARER(世話する人)」を組み合わせた英国発祥の言葉。幼いきょうだいの世話や日本語が話せない家族の通訳、アルコール問題を抱える家族の対応など負担は多岐にわたり、学業や友人関係に支障を来すとの懸念がある。1980年代に研究が始まった英国では、支援に向けた法整備が進んだ。