これまで20年近く、子供を対象にした沖縄での自然体験活動(キャンプ)に取り組んできました。夏休みを利用して全国から集まった子供たちは、さまざまな冒険的活動に挑戦します。ここ数年は新型コロナウイルス禍の影響で、実施を見送ってきましたが、このような時代だからこそ、子供にとっていかに自然体験が必要か、自然は子供の成長にどう影響するのかを考えてみたいと思います。
キャンプでは、子供たちと必ず約束を交わします。「挑戦すること」「協力すること」「諦めないこと」です。大学院時代の恩師が提唱していた3つの約束のうち、「我慢すること」を自分なりに「諦めないこと」に変えました。
「挑戦すること」は、人が本来持ち合わせている成長し続けたいとの願いをかなえるために大変重要です。「できないかもしれないからしない」ではなく、リスクを認知した上で、成功するかは分からないが、自分の力で乗り越えるために努力する。そのことが、成長につながります。自然環境は、子供にとって挑戦するチャンスがたくさん詰まった魅力的な場所です。
大自然の中では、到底1人では生きていけません。友達と知恵を出し合って「協力すること」で、他者との関係を学びます。意見がぶつかり合うこともありますが、共に楽しみながら本当の友達と言える仲間になっていきます。また、自然の中で諦めることは、けがや事故が起こる可能性を意味します。「諦めないこと」を最後まで貫き、やり遂げたとき、何とも言えない達成感や成功感が子供たちを包み込みます。
沖縄キャンプでは、数日間のサバイバル生活をプログラムに設けています。水と最低限の食料のほかは、自分たちで食材を調達しなければなりません。釣り具やモリを自作して魚を手に入れ、流木を集めて火をおこします。まさしく「生き延びる力」です。生き延びる力とは「新しい価値を創造する力」であり「緊張とジレンマの調整力」、そして「自分で責任をとる力」とも言われています。
子供たちの「責任感」を調べると、構成要素である「規律への意識」「協調性への意識」「課題遂行への意識」が沖縄キャンプの体験後に向上していました。全ての活動が新たな発見と価値を提供し、リスクに向き合いながら仲間と生活することで、責任感が身についたのです。
普段の生活には「便利」があふれています。便利すぎる生活の中で感性を磨くことは難しいものです。そんな現代社会の中に生きるからこそ、自然の中に出かけ、自らの感覚(感性)を磨き、責任感や生き抜く力を身につける必要があるのです。自然体験が豊かな子供ほど、道徳観や倫理観が高いことは過去の調査でも明らかです。コロナ下の規制も緩和されつつあります。積極的に子供たちを自然の中へ連れ出してみませんか。
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黒澤毅(くろさわ・たけし)滋賀県出身。筑波大学大学院体育研究科修了。専門は野外教育学。2001年からびわこ成蹊スポーツ大学の開学準備室で顧問を務め、03年の開学から教員。地域貢献事業として子供の冒険教育的活動に取り組むほか、チームビルディングや組織力向上を目的とした野外プログラムも行っている。
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スポーツによって未来がどう変わるのかをテーマに、びわこ成蹊スポーツ大学の教員らがリレー形式でコラムを執筆します。毎月第1金曜日予定。