主張

泊原発の差し止め 科学的論理欠いた判決だ

またもや原子力発電が「司法リスク」にさらされた。札幌地裁が北海道電力の泊原発3基の運転差し止めを命じた。道民らが原告となり東日本大震災後の平成23年秋から係争していた裁判だ。

判決の要は「泊原発には(現時点で)津波防護施設が存在せず、津波に対する安全基準を満たしていない」とするものだが、これはあまりに理不尽だ。

北電は津波で被災した東京電力の福島第1原発の事故を踏まえ、26年に防潮堤を設置しているではないか。今年3月からは、さらに強固な岩盤支持構造の防潮堤に造り替えるための準備工事に着手したところだ。工事期間中の津波対策も講じている。

こうした安全性強化に向けた取り組みを評価しないどころか、逆手に取ったかのような判決には苦言を呈したい。

しかも、判決骨子の冒頭には裁判の長期化に難色を示した文言が並んでいる。提訴から10年以上、原子力規制委員会への安全審査申請から9年近くたとうとしているのに北電側の主張の立証が終わる見通しが立たないとして「審理を継続することは相当でない」と打ち切りを宣言している。

これも牽強(けんきょう)付会な論理である。確かに原発敷地内の断層の活動性については規制委と北電の間で長年、議論が続いていた。だが、昨年7月に「活断層ではない」とする北電の主張が科学的に承認されたところである。

北電は、この大きな前進を訴訟に反映しようとしたが、裁判長は今年1月に突然、結審してしまい、今回の判決を下したのだ。

仮処分の決定とは異なり、判決がただちに効力を発揮することはない。北電は「到底、承服できない」として控訴の手続きを取った。当然だろう。高裁での偏りのない判断を期待したい。

泊原発の3基の総出力は207万キロワットに上るが、福島事故後の平成24年5月までに全基が停止したまま今にいたっている。

4年前の9月には、震度7の胆振東部地震で北海道全域が停電する「ブラックアウト」が起きた。泊原発が動いていれば避けられたことを忘れてはなるまい。

現在はロシアのウクライナ侵攻でエネルギー安全保障が重視されているさなかである。原発の存在感が増す時勢に背を向けた判決には、開いた口がふさがらない。

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