主張

新しい資本主義 看板倒れにならぬ政策に

政府が「新しい資本主義」の実行計画案と、これを加味した経済財政運営の新たな指針「骨太の方針」案をまとめた。7日に閣議決定する。

新しい資本主義は岸田文雄政権が掲げる看板路線である。かねて分かりにくいと批判されてきたその具体像が今回、ようやく提示された。

主眼を置くのは、市場や競争に任せればうまくいくという新自由主義の発想から脱却し、格差の拡大や気候変動、経済安全保障上のリスク増大などの社会的課題を官民連携で解決することである。

具体的には、賃上げを含む人への投資と分配や、科学技術への重点投資、スタートアップ企業育成などに計画的に取り組む。

その多くは従来の成長戦略などでも指摘された積年の課題だ。計画倒れにならないよう過去の施策の不備を徹底的に検証し、政策効果を高めなくてはならない。

政府案ではっきりしたことは引き続き成長や投資を重視することだ。アベノミクスを継承し、その足らざる部分を補う。そこに岸田政権の独自性はみられない。

資産所得倍増プランも「貯蓄から投資へ」という流れを後押ししてきた従来路線の延長である。そのための少額投資非課税制度(NISA)の拡充などを盛り込んだが、これらで十分なのか。所得倍増の実現可能性が厳しく問われることを銘記すべきである。

気になるのは、新自由主義がもたらす最たる弊害である格差問題への取り組みだ。岸田首相が就任当初にみせていた意気込みが感じられないからである。

実行計画案は、日本では成長の果実が適切に分配されず、従業員給料などに十分に回らない「目詰まり」があるとした。これを解消すべきだという問題意識は妥当である。そのために推進する賃上げ支援などももちろん重要だ。

ただし、より抜本的に格差是正を図るには、高所得層への富の偏在を抑制できるよう、税制などを通じた所得の再分配を併せて講じる必要があろう。岸田政権はそこまで踏み込もうとはしない。

岸田首相は昨年の自民党総裁選で、富裕層に有利な金融所得課税を見直す考えを示したが、反発が強く実質的に頓挫したままだ。これで「新しい資本主義」といえるのか。看板ばかりが先行するようでは国民の理解は得られないと厳しく認識しなくてはならない。

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