井上広大を、森木大智を…1軍に招集したらどうですか-。阪神は開幕53試合消化時点で20勝32敗1分けの借金12で依然としてセ・リーグ最下位。5月に入り投手陣は防御率1点台(29日時点で1・78)、シーズン通算でも2・78とリーグトップの安定感なのに絶望的な貧打で大きく勝ち越せない戦局が続いています。今後も打線の改善が見込めない状況下で、矢野燿大監督(53)に求めたいものは何か? 今季限りで退任するのであれば、最後の仕事は〝遺産〟を残すことでしょう。残り90試合の早い段階で、若手選手を次々と1軍に抜擢(ばってき)し、明日の主力選手の育成をメインテーマにしてほしいと願う球団OBやファンは多いですね。
打率はリーグ・ワースト
交流戦に突入し、2カードを終えました。楽天3連戦(甲子園球場)は1勝2敗、ロッテ3連戦(ZOZO)は2勝1敗。つまり3勝3敗の勝率5割です。そして、5月戦線はあと1試合を残した状況で11勝12敗ですね。きょう31日の西武3連戦(甲子園球場)の第1戦に勝つと、月間では勝率5割となります。
「3月、4月の戦いが悪すぎた。特に開幕戦の大逆転負け(一時は8対1のリードを逆転された)が痛いし、それを引きずったからね。5月は持ち直したけれど、大きく勝ち越せない状況は今の打線なら仕方ないだろう。あまりにも打てなさ過ぎるから…」と阪神OBの一人は話していましたが、まさにチーム状況は指摘の通りでしょう。53試合消化時点で20勝32敗1分けの借金12は3月25日のシーズン開幕からの9連敗、4月14日までの1勝15敗1分けという信じられない〝開幕逆噴射〟の〝残骸〟でもあります。
そして、指摘された通りのチーム状況は今後も大きく好転するとは思えませんね。なにしろ投高打低がひどすぎる。5月のチーム防御率は1・78(29日時点)です。通算でのチーム防御率も2・78です。いずれもリーグトップの数字です。失点159は2位にいる巨人の216失点(55試合消化時点)に比べれば、57点も少ないのです。ところが、投手陣をカバーすべき打線はというと…。
チーム打率2割2分3厘はリーグワースト。チーム得点155もワースト。チーム盗塁38も犠打43もリーグ最多なのに、点が全く取れない。本塁打数38はリーグ3位ですから、結局のところチャンスにタイムリーが出ない。犠飛も打てない…。
2軍若手にチャンスを
では、こうした打線を活性化する術(すべ)はあるのか? といえば、マルテは25日の楽天戦(甲子園球場)で走塁中に右足のふくらはぎを負傷し、2軍でリハビリを開始したばかりです。開幕直後にも同じ箇所を痛めて4月3日に抹消。5月10日に再昇格したばかりですから、しばらくは2軍戦にも出られないでしょう。では打撃不振のロハス・ジュニアはどうか? 29日のファームでのウエスタン・リーグ中日戦(甲子園球場)で3打数3安打2打点の活躍を見せましたが、では1軍昇格で以前とは別人の打撃力を発揮できますかね。誰がどう見ても、ロハス・ジュニアには大きな期待を寄せられないでしょう。
こうした状況下、阪神OBや関係者たちは異口同音に矢野監督ら現場首脳陣に対しての要望を口にし始めています。
「もう外国人選手に頼る打線構成はやめてもらいたいし、最近の矢野采配を見ていると、あまりマルテやロハス・ジュニアを頼りにしている感じもしない。それなら、この辺りで2軍にいる若い子に1軍での出場機会を与えてはどうだろうか。監督は今季限りで退任するんだし、将来への布石を打ってもらいたい。矢野遺産を残したもらいたい」 「打者では井上広大や高寺望夢、遠藤成、豊田寛らがいる。前川右京は故障明けだから、体調が万全にならないと1軍には呼べないだろうけど、あとの選手たちはどんどん1軍でチャンスを与えてほしい」
「打者だけではない。今季は西純矢を先発に抜擢して成果を残している。思い切ってドラフト1位の森木大智を1軍で投げさせてもいいのではないか。たとえ打たれても、1軍の厳しさを知り、その後の野球人生の糧になるはずだ」
などなど…。指揮官に若手抜擢を求める声が多く聞こえてくるのです。
ファームで4番を打ち続けるプロ入り3年目の井上広大外野手(20)は、29日現在で43試合に出場し、打率2割1分3厘、2本塁打の20打点です。プロ2年目の高寺望夢内野手(19)はファーム42試合に出場し、打率2割6分8厘、1本塁打、15打点。ルーキーの豊田寛外野手(25)は24試合に出場して打率2割3分4厘、2本塁打、6打点ですね。たぶん、平田2軍監督に聞けば、苦笑いを浮かべて時期尚早…と言うのかもしれません。
ドラフト1位ルーキーの森木大智投手(19)は25日のウエスタン・リーグ広島戦(鳴尾浜)に先発し、6回3安打無失点、8奪三振でウエスタン初勝利を飾ったばかりです。まだまだウエスタン2度目の先発ですし、投げるスタミナが備わっているのか? これも平田2軍監督に聞けば、答えはNOでしょう。
マルテ、ロハスは期待薄
普通のシーズンで、普通の打線ならば、彼らの1軍抜擢は時期尚早の答えしか返ってこないはずです。
しかし、現状の1軍の打線は今後も低空飛行が続くでしょう。マルテやロハス・ジュニアらが活性剤になるとはもはや思えず、これから暑い夏場となれば投手陣がへばってきます。打撃戦を制した方が勝つ…展開が増えていくなかで、阪神の打力アップの〝新戦力〟はどこにあるのでしょう。井上、高寺、豊田ら若武者を抜擢し、チャンスを与えるのも〝窮余の一策〟になるでしょう。
森木にしても、若い力が投手陣に新たな風を吹かせるのであれば、中堅投手陣の檄にもつながります。
そして、背景的にも若虎の抜擢は大いにアリです。なぜなら、矢野監督は今季限りでの退任を表明しています。来季以降はいないのです。次期監督ら将来のチームのために戦力を育て、つないでいく責務があるはずですね。〝矢野遺産〟を残すという意味でも、そろそろ戦略戦術の転換点でもあるでしょう。
まだまだ残り90試合もある。奇跡の逆転優勝は諦めていないのに、来季のことなど…と言うのかもしれませんが、打線の活性化が現状の戦力で望めないのであれば「若手を無理やり起用するな」という批判は当たりません。
交流戦も残り4カードです。これから暑い夏場の戦いがやってきます。投手陣がバテる前に、打線に新たな風を…。そう思うのですが、どうでしょう。
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【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) 1990(平成2)年入社。サンケイスポーツ記者として阪神担当一筋。運動部長、局次長、編集局長、サンスポ特別記者、サンスポ代表補佐を経て産経新聞特別記者。阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。