スタジアムでワクチン37万回 ヴィッセル神戸の神対応

ワクチン接種者の待機場所となったノエビアスタジアム神戸内のコンコース。普段はピッチに入場前の選手たちが待機する(ヴィッセル神戸提供)
ワクチン接種者の待機場所となったノエビアスタジアム神戸内のコンコース。普段はピッチに入場前の選手たちが待機する(ヴィッセル神戸提供)

サッカーJリーグの各クラブが自治体や企業などと協力し、環境保全や健康づくり、コミュニティーづくりなどの地域活性化に取り組む社会連携活動「シャレン!」で5月、優れた取り組みを表彰する「シャレン!アウォーズ」のパブリック賞に、神戸市の新型コロナウイルスワクチン接種会場の運営に協力したヴィッセル神戸の活動が輝いた。本拠地のノエビアスタジアム神戸(神戸市兵庫区)を接種会場に改造し、1、2回目合わせて約37万回の接種を実施。取り組みをきっかけに新たなファン層開拓にもつながるなど、スポーツクラブと地域の新たな関わり方として注目される。

生きたノウハウ

Jリーグは平成3年の発足以来、地域密着を掲げてきた。当初は「地域密着=応援してもらう」の図式だったが、近年は「応援してもらうには、地域に貢献する必要がある」との考えが浸透。「シャレン!」の取り組みもその一つだ。中でも、「パブリック賞」はハードルが高いとされ「国や自治体が掲げる政策を活用し、地域の課題解決に向けてさまざまな関係者と連携し、持続可能な活動となるように取り組んでいる」が選考基準となっている。

ヴィッセル神戸でノエビアスタジアム神戸を接種会場にする話が浮上したのは、令和3年のゴールデンウイークのころ。国内のワクチン接種が進まない中、「欧州でスタジアムを利用した接種が始まった」とのニュースが流れたのがきっかけだった。その後、親会社の楽天グループからの正式な指示もあり、約2週間で態勢を整え、接種開始にこぎつけた。

使える部屋は徹底的に医療用のスペースに改造。選手らがピッチに入る前に待機するコンコースは、パイプ椅子を並べて接種者の待機場所に、選手が着替えなどを行うロッカー室も経過観察用の部屋として活用した。スタジアム本部スタジアムエンターテインメント部の菊地隆之部長(46)は「接種会場として提供することに不安もあったが、地域に好意的に受け止めてもらった。短期間で準備しなければならないということで、日ごろの業務が生きた」と振り返る。

自治体や医療機関、大学なども含めて最大28団体と連携。医療従事者以外にも地元のボランティアや楽天グループの社員も含め、1日あたり200~300人が運営に携わった。受付に長い待機列ができないようにしたり、備品を手際よく片付けたりなどの実務面で、普段の試合運営のノウハウを発揮。神戸市や兵庫県と築いてきた太いパイプが、送迎用バスの運行などスムーズで快適な会場づくりにつながったという。

接種通じファン拡大

運営には元スペイン代表の世界的スター、アンドレス・イニエスタをはじめ、ヴィッセル神戸の選手も協力した。会場のあちこちには選手が案内役を務める看板が設けられ、神戸市内にはワクチン接種を呼び掛けるポスターが掲示された。

神戸市内には選手がワクチン接種を奨励するポスターも掲出された(ヴィッセル神戸提供)
神戸市内には選手がワクチン接種を奨励するポスターも掲出された(ヴィッセル神戸提供)

クラブを挙げての活動に、うれしい反応もあった。「ヴィッセル」という言葉すら知らなかった高齢の女性が接種をきっかけに「応援する」と言ってくれたり、待機中の接種者が、選手入場をエスコートする役目をした子供のころの思い出を話していたり…。菊地部長は「安心、安全な接種会場を目指したが、非常に喜んでもらえた。『(接種が)思ったより早く終わった』といった声もあった」と話す。

さらには接種会場の運営を通じ、スタジアムの新たな「価値」にも気付かされたという。準備のために毎朝早くから大勢のスタッフがスタジアムに来ていたことから、どうせ早く来るのならとラジオ体操を始めたところ、地域の人も集まるようになった。地域に開放したラジオ体操は、今年も継続する予定だ。

菊地部長は「今まで以上にスポーツクラブと地域の関係は近くなっていくと思う。さまざまなところと連携を強め、街をもっと元気にしていく一助にヴィッセル神戸を使ってもらいたい」と話している。

社会連携活動 各地で進行

Jリーグは、まちづくり、健康、ダイバーシティ(多様性)などの課題に、地域住民や自治体、企業など3者以上と協力して取り組む社会連携活動を進めている。今年で3回目を迎えた「シャレン!アウォーズ」にはJリーグ全58クラブからエントリーがあり、ヴィッセル神戸以外にもさまざまな取り組みがあった。

ヴィッセル神戸とともに「パブリック賞」を受賞したのは松本山雅FC。金銭的な理由や家庭事情などで生理用品の入手が難しい「生理の貧困」に関し、地域で講習会を開催。スタジアムのトイレに生理用品を設置した。

地域の社会課題解決に取り組む「ソーシャルチャレンジャー賞」を受賞した、いわてグルージャ盛岡はスタジアム内の飲食ブースで植物由来の「循環型食器」を導入。回収後に堆肥化して米作りに活用し、作った米は子供食堂に寄付する。地域スポーツを応援することをきっかけに、ゴミ問題解決と社会連携を目指したという。

そのほか、試合のない日の夜間にスタジアムを開放し、星空などを楽しんでもらうガイナーレ鳥取の試みは、メディアが取り上げたいと思う活動だったとして「メディア賞」を受けた。(北川信行)

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