探訪

山間のどかに「乗り鉄」魅了、鉄路の未来は JR芸備線

小奴可駅を出発し備後落合駅に向かう昼の列車。JR芸備線の備後落合駅-東城駅間はJR西日本管内で最も不採算という=19日、広島県庄原市(桐原正道撮影)
小奴可駅を出発し備後落合駅に向かう昼の列車。JR芸備線の備後落合駅-東城駅間はJR西日本管内で最も不採算という=19日、広島県庄原市(桐原正道撮影)

「1日3往復の汽車の時刻に合わせて、生活しています」

5月中旬の平日の朝、JR芸備線の備後落合駅(広島県庄原市)-東城駅(同市)間を走る1両編成の列車には、誰も乗っていなかった。途中の小奴可(おぬか)駅から乗車してきた東城駅近くの県立東城高校に通う山下育(すぐる)さん(17)に声をかけ、東城駅で話を聞いた。

朝の列車は午前7時半に東城駅に着くが、学校の始業は8時半。小一時間を駅前のベンチで待つ。午後4時半に部活が終わっても、帰りは7時すぎの最終列車しかない-。

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はにかむように教えてくれた内容は、心にずしりと残った。

訪れたのは、地方の鉄道が直面する現状を確かめてみたかったからだ。JR西日本によると、この区間で100円の運賃を稼ぐためには約2万7千円の経費がかかる。管内で最も不採算の路線という。

東城駅ー備後落合駅
東城駅ー備後落合駅

原因は利用者不足に尽きてしまう。住民によると日常的に利用するのは高校生2人、中学生1人。通院で利用する人もいるが、車やバスが主流だ。沿線の国道を走れば、鉄道で約50分の備後落合駅-東城駅間は約25分しかかからない。

朝、東城駅前のベンチで過ごす山下育さん。タブレット端末でSNSなどを見て過ごす=19日、広島県庄原市(桐原正道撮影)
朝、東城駅前のベンチで過ごす山下育さん。タブレット端末でSNSなどを見て過ごす=19日、広島県庄原市(桐原正道撮影)

実際、3往復6本の全列車に乗車したが、車内はいつも閑散としていた。一番混雑する昼の下り列車で乗客が13人。夜の列車の男性運転士は備後落合駅を発車前、「夜は(乗客が)誰もいないのが普通ですよ」とつぶやいた。

山下さんは、列車を待つ時間を利用してアルバイトをしている。運転免許を取る費用にあてるつもりだ。

「卒業して免許を取ったら、もう(汽車には)乗らないと思います」

一方で昼の便では「乗り鉄」の姿が目立った。山間を縫うように走るローカル線の車窓に魅力を感じ、全国から乗りに訪れるファンもいる。

備後落合駅に並ぶJR芸備線の車両。鉄道ファンや旅行者でにぎわう時間帯もあった=19日、広島県庄原市(桐原正道撮影)
備後落合駅に並ぶJR芸備線の車両。鉄道ファンや旅行者でにぎわう時間帯もあった=19日、広島県庄原市(桐原正道撮影)

芸備線の全線開通は昭和11年。年月を経て移動手段の役割を終えつつあることは間違いないようだ。しかし、その先に思いを巡らせると、新しい活用方法を見つければ、走り続けることができるかもしれない、という考えと、「地元」が離れても可能なのか―という考えが交錯してしまう。

答えが出ないまま、窓に目を向けると、まぶしいばかりの新緑の景色が広がっていた。

(写真報道局 桐原正道)

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