札束をチラ見せ…15億円集めた詐欺男の「カバン芸」

ある人は老後のため、ある人は新規事業立ち上げのため…。それぞれが夢や生活のために蓄えていた資金を男は次々と引き出していった。兵庫県警が2月以降、詐欺や金融商品取引法違反(無登録営業)容疑で逮捕した大阪市の元会社役員、佐藤広行被告(56)=詐欺罪などで起訴。高配当や元本保証をうたって暗号資産(仮想通貨)などへの投資を募り、30都道府県の約千人から15億円以上を集めていたとされる。「一見地味そう」(出資者)とされる男がこれだけの金を集められた理由は、人の心に入り込む演出があったからだ。被害者たちがその手口を語った。

「毎月10%の配当がある。元本も保証する」「5億~6億円は軽く稼げます」

暗号資産についてのセミナー会場で、佐藤被告は参加者へこう語りかけた。持っていたかばんからは、さりげなく札束がはみ出していた。熱心にメモを取っていた参加者らの目は札束にくぎ付けとなった。

「暗号通貨投資アドバイザー」を自称していた佐藤被告。セミナー参加者の中から出資してくれそうな人を探し、海外のゲーム会社が開発した暗号資産「プレイコイン」や人工知能(AI)を活用する外国為替証拠金取引(FX)への投資を勧めていった。

兵庫県の男性(74)は平成27年ごろ、大阪市内で開かれたセミナーで佐藤被告と出会った。当時は退職から数年が経過したころ。老後のために1千万円ほどあった貯金を増やせないかと考えていた。

佐藤被告は高級なスーツを着ているわけでも、時計やアクセサリーを身に着けているわけでもなく、ポロシャツ姿のカジュアルな装いだったという。

セミナー後の食事会で佐藤被告は男性に近づいた。「何かうさん臭いな」。当初はそう感じたが「まるで大学の教授が講義をするような丁寧な口ぶりで投資の仕組みを説明してきた」。

酒を飲んでいたこともあり、すっかり気を許し、聞き入ってしまっていた。加えて、当時はメディアで、暗号資産などへの投資で資産1億円以上を保有する「億り人」の特集が組まれるなど、世間の関心の高まりを感じており、投資を決めた。

口癖は「僕を信じて」

最初は1日に5万円が配当されることもあった。佐藤被告からも「この調子でさらに投資額を上げていきましょう」などと言われ、さらに高額を渡すようになっていった。結局、計約750万円を投資したが、やがて利益が出なくなり、佐藤被告とは連絡がつかなくなった。

男性は「金に目がくらんだ。老後の楽しみのためにためておいた資金をとられたのは悔しい。人生の楽しみを奪われた」と憤る。

大阪府の女性(56)は、佐藤被告からパソコンの画面を見せられた。右肩上がりのチャートを示して「僕は30万しか入れてないけど、今1千万になっているよ」と笑顔を見せた。

結局、出資した金は返ってこず、女性は「『僕が保証する』『僕を信じて』が口癖だった。金を返してほしい」と訴える。女性は体調を崩し、今も通院している。「投資をすれば生活が楽になると思っていた。いろんな人を苦しめておいて自分は悠々自適に生活していたと思うと許せない」と声を震わせた。

逮捕、起訴されるも戻らない出資金

こうした出資者らからの申告を受け、兵庫県警生活経済課は今年2月、無許可で暗号資産への投資を勧誘したとして、金融商品取引法違反容疑で佐藤被告を逮捕。3月には虚偽の説明で出資金をだまし取ったとして詐欺容疑で再逮捕した。

同課の調べに佐藤被告は「許可のない勧誘が違法だとは思わなかった」「だますつもりはなかった。利益が出ればあとで配当するつもりだった」などと容疑を否認し続けたという。

「容疑者の検挙には至ったが、口座に金は残されていない。暗号資産に換えて海外で保管されている可能性も考えられる」と捜査幹部。出資者の男性は悔しさをにじませながら語る。「裁判で有罪判決が出ても、資産が戻ることはないだろう。腹立たしいが、これ以上の被害が出ないことを願うばかりだ」(鈴木源也)

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