露、イランに接近 市場拡大、中国含め反米協調狙う

ロシアのプーチン大統領(AP=共同)
ロシアのプーチン大統領(AP=共同)

【カイロ=佐藤貴生】ロシアが経済を中心にイランとの関係強化を進めている。ウクライナに侵攻したロシアは米欧の強力な制裁で経済が疲弊しており、イランを自陣に引き留めて市場拡大につなげる狙いがうかがえる。米欧がウクライナでの戦闘への対応で忙殺される裏側で、ロシア、イランに中国を含めた反米3カ国が連携を強めている可能性も否定できない。

ロイター通信などによると、露のノバク副首相は25日、イランの首都テヘランで同国の高官と協議し、協力強化を盛り込んだ複数の文書に署名した。ノバク氏は侵攻後、米欧など「非友好国」の対露圧力が強まったため、「イランとの関係発展の必要性が高まった」と述べた。

イランでは干魃(かんばつ)による不作が続いており、露は小麦など穀物500万トンをイランに供給する見通しだ。核開発問題で米国の制裁を受けているイランの高官は、外貨を介さず、両国の通貨で決済を行うことに意欲を示した。

ノバク氏は、露がイランにエネルギーを供給し、イランは南部の港からアジア諸国に原油・天然ガスを輸出する枠組みでも近く合意するとの見通しを述べた。イランは米制裁で原油輸出が禁じられているが、中国は非公式にイランから原油を購入して同国の経済を支えている。一見不可解なこの枠組みからは、欧州が依存脱却を進めて行き場を失う露産原油をイラン経由で搬出する狙いさえちらつく。

露とイランはすでに、協調して原油の不正取引を行っている疑いもある。ギリシャ政府が先月、同国近海で停船を命じた船にはロシア人約20人が乗っていたが、イラン産原油を積んでいたことが判明。同船は露の侵攻後、船籍や船名を変えて偽装を図ったとみられ、米国は監視を強化する方針を打ち出している。

露の侵攻で原油は高値傾向が続き、中国という〝販路〟を持つイランは、核合意を修復して対米関係を改善することへの意欲を失っていると指摘される。

昨年、25年もの長期に及ぶ包括的な協力協定をイランと結んだ中国と違い、露は近年、イランとの間で目立った協力強化を打ち出してこなかった。侵攻後のイランへの接近は、露が制裁で深刻な影響を受けていることを示すとともに、中国とイランを頼りにそのダメージの緩和に動いている可能性を示している。

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