渡海(とかい) 十四
たまたまかえってきた晴賢(はるかた)の耳に、小姓の戯言(ざれごと)が入っている。己が嘲られたと感じた晴賢は若楓という脇差を抜くと――怒りの濁流に押し流され、若杉九郎(わかすぎくろう)と伊香賀采女(いかがうねめ)を斬り殺してしまった。
酒のせいか、それとも、この頃の晴賢を苦しめていた義隆の取り巻き・文治派との対立のせいで気持ちがささくれ立っていたのか?
晴賢は激情を押さえられなかった。
血塗れになった体にひんやりした夜風が当たり、動悸(どうき)が静まり、酔いが醒(さ)めてゆく。胸の中の魔がしぼんでゆく。我に返った晴賢はやりすぎたと悔い、伊香賀隆正(たかまさ)を呼んで事情を話し、