今年4月、ある民放情報番組に出演したコメンテーターが、わが国の安全保障に関する自民党提言案の中で、防衛費の積み増し案が浮上したことを「火事場泥棒」と揶揄(やゆ)した。ウクライナ危機に乗じた軍拡の流れを危惧したようだが、防衛費拡充の議論をどさくさ紛れと切り捨ててもいいのか。
陸自幹部の危機感
「ウクライナの人口は4100万人、陸軍は約10万人。一方、1都6県の人口は約4400万人とウクライナとほぼ同じですが、(首都防衛を担う)第1師団は約6千人。『4400万人を第1師団だけで守り切ることができます』。私はそう言い切ることができません」
4月10日、陸上自衛隊練馬駐屯地(東京都練馬区)で開かれた第1師団創立60周年の記念行事で、児玉恭幸(やすゆき)師団長は危機感をあらわにした。陸自幹部が国防に関して後ろ向きとも取れる発言をするのは異例だが、この発言の裏には、わが国を取り巻く安全保障環境が創立以来最も緊迫していることへの懸念がある。