小林繁伝

「第2の戦略」へ…命運分けた休憩時間 虎番疾風録其の四(54)

巨人に1位指名された鹿児島実高の定岡投手(手前)と長嶋新監督=昭和49年12月、後楽園球場
巨人に1位指名された鹿児島実高の定岡投手(手前)と長嶋新監督=昭和49年12月、後楽園球場

抽選の結果、昭和49年「第10回ドラフト会議」の指名順序は〝一番くじ〟を引いた近鉄が1番。2番が阪急、中日が3番。以下、巨人―大洋―ロッテ…阪神は「7番」となった。

会議は休憩時間に入った。この間に各球団は指名選手の最終検討を行った。休憩が終わるといよいよ指名だ。まず、近鉄の1位指名が読み上げられた。パ・リーグ伊東広報課長の甲高い声が響く。

「近鉄、福井保夫、投手、松下電器」

会場に「おおぉ」という大きなどよめきが起こる。それは「山口じゃないのか?」という驚きではなく、「やっぱりな」というため息に似ていた。

近鉄関係者によれば、休憩の50分間、首脳陣の心は「山口を指名するかどうか揺れた」という。だが「噂とはいえ、ウチは8千万円という契約金は出せない」「それに指名しても松下電器の強烈な引き留めがある」「それなら、方針通り〝第2の戦略〟でいこう」となった。

第2の戦略とは前回(第53話)で紹介した「高卒の社会人」狙い。福井は岡山・津山商出身。近鉄の「福井」指名にはそんな経緯があった。

「すべて予定通りや。山口はたしかに即戦力や。名声と実績には魅力がある。けど、福井には将来性の期待が持てる。山口は少々、肥え気味やしな。その点、福井は」と西本監督も苦しい感想。

よりによって近鉄に「一番くじ」がいかなくとも―。西本監督の〝非運〟がまたクローズアップされた。

49年のドラフト1位指名選手は次の通り決まった。

①近鉄 福井 保夫 投 松下電器

②阪急 山口 高志 投 松下電器

③中日 土屋 正勝 投 銚子商高

④巨人 定岡 正二 投 鹿児島実高

⑤大洋 根本 隆 投 日本石油

⑥ロッテ 菊村 徳用 投 育英高

⑦阪神 ×古賀 正明 投 丸善石油

⑧ヤクルト 永川 英植 投 横浜高

⑨南海 長谷川 勉 投 日産自動車

⑩日本ハム 菅野 光夫 内 三菱自川崎

⑪太平洋 ×田村 忠義 投 日鋼福山

⑫広島 堂園 喜義 投 鹿児島商高

(×は入団拒否)

この年の1位指名選手で入団しなかったのは2人。太平洋から指名された田村は「入団拒否」。だが、阪神から指名された古賀は違った。そこにはもうひとつのドラマがあった。(敬称略)

■小林繁伝55

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