【ロンドン=板東和正、北京=三塚聖平】世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長(57)がジュネーブで開催中の年次総会で再選された。同氏は新型コロナウイルスの発生当初、中国寄りの態度を非難されたが、最近は中国の新型コロナ対策を批判するなど対応を変化させつつある。感染症が発生した際のWHOの権限強化が今後の課題となりそうだ。
テドロス氏は8月から2期目に入り、任期は2027年までの5年。今回の事務局長選では同氏以外に候補者は出ず、24日の事実上の信任投票で再選が決まった。ドイツや米国などが支持し、選出に必要な3分の2以上の賛成を得た。
テドロス氏はエチオピア出身で、17年にアフリカから初めて事務局長に就任した。新型コロナの感染拡大初期、「時宜にかなった有力な措置を講じている」などと中国の対応を繰り返し称賛。「中国寄り」と非難され、米国のトランプ前政権がWHO脱退を通知する事態に発展した。
しかし、昨年ごろから、テドロス氏の中国への発言に変化が生じた。WHOが昨年3月末、新型コロナの起源解明のため中国湖北省武漢市で調査を行った国際調査団の報告書を公表した際、テドロス氏は「(中国側から)データが十分に提供されず、広範囲にわたる分析が行われたとは思えない」と不満を示した。
今月10日には、感染拡大を徹底的に抑え込む習近平政権の「ゼロコロナ」政策について「持続可能とは思えない」と批判。WHOが特定の国の新型コロナ対策を批判するのは異例で、中国外務省は「無責任な言論を発表してはいけない」と反発した。
ロイター通信によると、国連はテドロス氏の発言を中国語で交流サイト(SNS)に投稿したが、中国の短文投稿サイト「微博(ウェイボ)」への投稿は直ちに削除されたという。
感染拡大初期の中国当局の対応をめぐっては、WHOの新型コロナ対応を検証する独立委員会が昨年1月の中間報告で「より強力に実施できたことは明白だ」と非難。欧米など多くの加盟国が中国の対応に批判を強める中、「テドロス氏は再選の支持を幅広く得るために中国への忖度(そんたく)が疑われる姿勢を改めた」(感染症の専門家)とみられる。
ただ、テドロス氏にはWHOの権限強化への改革などの課題が立ちふさがる。
新型コロナが中国で確認された当初、WHOは感染状況を把握しようとしたものの、WHOの調査に強制権がないことから中国政府の協力に頼らざるを得なかった。そのため、一部の加盟国は、感染症が発生した際、WHOが当該国の同意なしに即座に現地調査を実施できるよう権限強化を求めている。だが、第3者による新型コロナの起源解明に消極的だった中国の反発が予想されそうだ。
中国疾病予防コントロールセンターで流行病学首席科学者も務めた曾光氏は、25日付の中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(英語版)で「(再選された)テドロス氏が科学に基づいて意思決定を行い、今後、一部の西側諸国からの政治的圧力に抵抗できることを望む」とクギを刺した。