鑑賞眼

新国立劇場オペラ「オルフェオとエウリディーチェ」 舞踊との融合美しく

歌手は主に盆の上で、ダンサーは外側で踊った(撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場)
歌手は主に盆の上で、ダンサーは外側で踊った(撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場)

オペラとダンスが美しく融合した、白昼夢のような2時間を味わった。出演者や装置を最小限までそぎ落とし、巨大な盆とユリの花とともに陰影の中に浮かび上がらせる勅使川原三郎の美的世界を、今も反芻(はんすう)している。勅使川原演出・振付・美術・衣装・照明。鈴木優人指揮。

新国立劇場が新制作した、ギリシャ神話に基づくグルック作曲のバロック・オペラ。愛妻に先立たれた夫が、嘆きのあまり冥界へ-という物語は日本の古事記にもありシンプルだ。オルフェオ(夫)を世界的カウンターテナーのローレンス・ザッゾ、エウリディーチェ(妻)をヴァルダ・ウィルソン、愛の神アモーレに三宅理恵。これに合唱が加わる。

何よりダンサーで振付家でもある勅使川原が、舞曲の多い今作を手掛けたことが奏功、オペラとしても、舞踊作品としても、洗練された作品にした。ダンサーの顔ぶれからして、独名門ハンブルク・バレエ団のプリンシパル(最高位ダンサー)、アレクサンドル・リアブコに、勅使川原と普段から共演している佐東利穂子ら4人とぜいたくだ。

勅使川原三郎作品には二度目の出演となるアレクサンドル・リアブコ(撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場)
勅使川原三郎作品には二度目の出演となるアレクサンドル・リアブコ(撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場)
光と戯れるように舞う佐東利穂子(撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場)
光と戯れるように舞う佐東利穂子(撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場)

1幕、現世の象徴のような巨大盆上に立つオルフェオを囲み、黒装束の合唱隊がコロス的にうごめき、精霊のようなダンサーらが舞う。ザッゾの歌声はやわらかく、特に弱音が心地いい。佐東がエウリディーチェの魂のような存在で、空気をまとったような白い衣装も美しい。

2幕でオルフェオが冥界に来ると、ダンスの見せ場。巨大盆は消え、フラットな冥界空間で、佐東がしなやかな動きでオルフェオを誘い、すり抜ける。リアブコは勅使川原振付らしい高速回転も駆使し、ダイナミックな跳躍は息をのむほど。また背景の巨大ユリが、物語の進行とともに色を変え、枯れたようにも、生気を取り戻したようにも見えるのが面白い。

ウクライナ出身のリアブコは、日本のバレエファンにはおなじみのスターだ。勅使川原とは昨年夏、新作ダンス作品「羅生門」で共演しており、今回、勅使川原の動きの文法がさらに自然になった印象。オルフェオの揺れる内面を反映したような、繊細な動きと、激しい動きの落差が鮮やかだ。ザッゾの強弱とも滑らかな高音と、ダンサーの動きとが相まって、ついフラフラと足が向いてしまうような魅力的な冥界を現出させた。

3幕では巨大盆が再び現れ、オルフェオとエウリディーチェの葛藤に、アモーレが加わる。アジサイをまとったような衣装のウィルソン、アモーレ役の三宅とも、姿声とも美しい。神話の悲劇と違い、ハッピーエンドの大団円に酔った。

一般にコラボレーション作品だと、「ここは歌」「ここはダンス」と場面振り分けが明白過ぎる舞台も散見される。しかし勅使川原は今回、総合的に演出を担った事で、両者を違和感なく融合。登場人物とダンサーを舞台上で分けて動かしながらも、踊りで登場人物の内面を表現し、相乗効果でより豊かな舞台になった。

勅使川原は最近、ベネチア・ビエンナーレ金獅子功労賞を受賞するなど、国際的評価も高い。たった3日間の上演で終わらせず、世界に発信してほしい。

5月19~22日、東京・初台の新国立劇場オペラパレス。(飯塚友子)

公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。

照明によって表情を変えるユリの装置(撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場)
照明によって表情を変えるユリの装置(撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場)


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