小林繁伝

資金不足の球団に狙い目の選手は… 虎番疾風録其の四(53)

初めてドラフト会議に参加し、南海の野村監督(左)と握手する太平洋の江藤新監督=昭和49年
初めてドラフト会議に参加し、南海の野村監督(左)と握手する太平洋の江藤新監督=昭和49年

昭和49年のドラフトから契約金の上限(1千万円)が撤廃され、契約金は天井知らずとなった。スポーツ紙はこぞって有力選手がいくらになるかを書き立てた。高い方がニュースになる―と少々高めの予想。松下電器の山口は8千万円。大昭和北海道の中山が5千万円。高校ビッグ5には3千万円の値がつけられた。

「こういう報道はやめてほしいよ。選手が本当にこのくらいもらえると思い込んで、後の交渉がやりにくくなるんだ」とスカウトたちは眉をひそめた。

現実は甘くはなかった。当時、「1億円の補強費」が用意できたのは〝黒字球団〟の巨人、阪神、中日ぐらいで、パ・リーグは不況のあおりをうけ5千万円から4千万円台。3年連続最下位の広島は2千万円といわれた。

大卒の社会人選手は「好きでもない球団に指名されたうえに値踏みされるくらいなら、今の会社に骨を埋める方がいい」といたって強気。そこで、資金不足の球団は「高卒の社会人」を狙った。その理由はこうだ。

①高校を出たばかりの選手より、戦力になるのが早い

②大企業では高卒は昇格のチャンスが少なく、給料も安い

③会社に対してなにがしかの不満を持っている選手が多い

「そこが狙い目」というわけだ。

11月19日、東京・日比谷の日生会館。「第10回ドラフト会議」は予備抽選が終わり、本抽選が始まろうとしていた。新監督で参加したのは阪神・吉田、大洋・秋山、太平洋・江藤の3人。巨人・長嶋と広島・ルーツ監督は欠席した。

予備抽選で「1」を引いたロッテ・金田監督からくじを引いていく。「6番」。ガッカリした金田監督のオーバーアクションに会場は少し和んだ。

4番目に引いた巨人が「4番」、阪神は「7番」、大洋は「5番」、阪急は「2番」、太平洋は「11番」。なかなか、イの一番くじが出てこない。そして10番目にくじを引いた近鉄・西本監督に「1番」が出た。「おおぉ」と会場にどよめきの声が起こる。

「ワシはくじ運が悪いと思とったのに…」。一番くじは大当たりの〝山口くじ〟。普通ならガッツポーズをしてもおかしくない。だが、西本監督の表情はどこか悲しそうに見えた。(敬称略)

■小林繁伝54

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