クアッド首脳会合

米豪印「民主主義」大合唱は、もろ刃の剣

日米豪印首脳会合に臨む(左から時計回り)バイデン米大統領、岸田文雄首相、モディ印首相、アルバニージー豪首相=24日午前10時52分、首相官邸(春名中撮影)
日米豪印首脳会合に臨む(左から時計回り)バイデン米大統領、岸田文雄首相、モディ印首相、アルバニージー豪首相=24日午前10時52分、首相官邸(春名中撮影)

24日に首相官邸で開かれた日米豪印4カ国(クアッド)の首脳会合は、岸田文雄首相を除く各国首脳による「民主主義」の合唱で始まった。

「民主主義国と独裁国家の対決だ。われわれは結集しなければならない」

バイデン米大統領は会合の冒頭で、インドのモディ首相にこう語りかけた。日米豪印は台頭する中国を脅威とみなす地政学的関心を共有するだけでなく、民主主義国という共通点を持つ。ロシアのウクライナ侵攻をめぐり足並みが乱れる中で、民主主義の価値を確認することで4カ国の結束を維持する思惑が働いたとしても不思議ではない。

モディ氏もクアッドについて「民主主義勢力にとって大きな力となっている」と強調。オーストラリアのアルバニージー首相は日米豪印の協力は民主主義など共通の価値を土台としていると述べた。

ただ、民主主義の強調はもろ刃の剣でもある。クアッドの目標について、日本政府関係者は「表では言わないが中国への対抗だ。特にASEAN(東南アジア諸国連合)を取り込まなければならない」と語る。だが、ASEANにはベトナムなど非民主主義国も含まれており、クアッドが民主化を求める圧力装置と受け止められればASEANの離反を招く恐れもある。

こうしたアジアの機微に配慮し、性急な民主化を求めないのが日本外交の伝統だったが、最近になって変化の兆しもある。岸田首相は5日、訪問先の英国での記者会見で「民主主義国家同士は戦争をしない」という哲学者カントの言葉を紹介した上で「だからこそ普遍的な価値を共有する国々の協調がますます重要になってきている」と語った。

首相が引用したカントの考え方は「デモクラティックピース(民主的平和)」と呼ばれ、欧米諸国が民主主義国の拡大を目指す根拠となってきた。北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を推進したクリントン元米大統領は、明示的に民主的平和を掲げていた。

だが、民主主義国に移行する過程で社会が不安定化し、戦争の可能性が高まるという分析もある。民主主義の拡大を目指した結果、混乱が生じ、中国の影響力が強まる-。こうした事態を避けるためには不用意な民主化を追求せず、ワクチン普及やインフラ整備などの実利で地域国を引き寄せるというクアッドの「初心」を忘れないことが重要となる。(杉本康士)

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