VS株主&VS巨人という意味でも交流戦18試合は絶対に大きく勝ち越さなければなりません。阪神は20日からの巨人3連戦(甲子園球場)を2勝1敗と勝ち越し。いよいよきょう24日からパ・リーグ6球団(楽天3連戦=甲子園球場からスタート)との交流戦が始まります。チーム成績は17勝29敗1分けの借金12。交流戦で大きく勝ち越し、借金を減らさなければ、6月15日に開催される阪急阪神ホールディングスの定時株主総会は大荒れの予感…。さらに巨人との間に続くセ・リーグDH(指名打者制度)導入論争にも影響が出てきます。まさに正念場の戦いがやってきました。
質問、抗議?来月は株主総会
やればできるのです。交流戦前の巨人3連戦は2勝1敗の勝ち越し。初戦こそ延長戦の末に競り負けましたが、続く第2戦はウィルカーソン―湯浅―岩崎とつないで辛勝。第3戦は新型コロナウイルス陽性判定を受け、46日ぶりに1軍昇格したばかりの左腕・伊藤将が8安打されながら、無四球の完封勝利。連日、4万人を超える大観衆で埋まった甲子園球場で宿敵巨人に勝ち越しました。これで今季の対巨人の対戦成績も7勝5敗! どやねん…という強さです。
「阪神は開幕9連敗で出はなをくじかれたけど、戦力的にはそんなに最下位に低迷するようなチーム力ではないはずだ。実際、巨人とは12試合戦って、五分以上の成績だし、本来の力を出せばこんなものだよ」とは阪神OBの言葉ですが、おっしゃる通りかもしれません。なにしろ、4月23日のヤクルト戦(神宮)以降の24試合は14勝10敗の貯金4です。日曜日は5連勝を飾っています。自慢の投手陣が安定してきたことが大きな要因ですね。
さあ、そんな阪神が挑むのがきょう24日から始まるパ・リーグ6球団との交流戦です。まずパ・リーグ首位の楽天(26勝15敗1分け)を本拠地・甲子園球場に迎え撃ち、ロッテ戦(ZOZO)、西武戦(甲子園球場)、日本ハム戦(甲子園球場)、ソフトバンク戦(PayPay)、オリックス戦(京セラ)と続く18試合です。
この3連戦6カードをすべて勝ち越せば、12勝6敗となり、チームの借金も半減します。交流戦後の6月17日から始まる後半戦(DeNA戦=甲子園球場)に向けて是が非でも弾みをつけられるような戦いをしてほしいものですね。
そして、今季の交流戦の成績はさまざまな観点からも重要となるでしょう。まずグラウンド外のVS株主との〝戦い〟です。交流戦終了後の6月15日には阪急阪神ホールディングスの定時株主総会が開催されます。例年、阪神ファンと思われる株主からタイガース関連の質問?注文?抗議?が殺到することで知られる株主総会ですが、今年は矢野燿大監督が春季キャンプ前日の全体ミーティングで「俺の中で今シーズン限りで退任しようと思っている」と衝撃の退任表明を行い、開幕から9連敗とズッコケました。まさに突っ込みどころ満載のチーム事情を抱えています。
仮に交流戦でもチーム成績が好転せず、借金が増えた状況で株主総会となれば『どうしてフロントは監督の退任表明を事前に止めなかったんだ』『外国人選手に多額の経費をかけているのに、ロハス・ジュニアもマルテもチェンもケラーもアルカンタラもサッパリやおまへんか』などなど、いまさら球団幹部も説明しづらい〝急所〟をどんどん突かれるでしょう。
しかし、逆に交流戦で大きく勝ち越し、借金が目減りした状況での開催となれば株主の〝気勢〟もそがれて、球団幹部が立ち往生する場面は防げるかもしれません。なので、交流戦18試合の成績はVS株主に向けた大事な大事な試合となるわけです。
DH制巡る議論に影響も
さらに、水面下で続くVS巨人との攻防戦に向けても好材料としなければなりません。巨人が強く求めているセ・リーグのDH制(指名打者制度)導入案は依然として阪神や広島の猛反対で実現していません。巨人以外のセ5球団は導入反対でスクラムを組んでいる状況ですが、今後は予断を許さない状況ですね。なぜなら、今季から海の向こうの大リーグではナショナル・リーグもDH制を導入しました。すでにDH制を敷くアメリカン・リーグとともに両リーグがDH制となりました。野球の本場が春先のロックアウト明けに導入した両リーグでのDH制度は巨人の態度を強くさせるはずです。
そんな情勢での交流戦ですが、では阪神はなぜパ・リーグ6球団に大きく勝ち越さなければならないのか…。それは反対する大きな理由のひとつに説得力をもたせるためだからです。巨人以外のセ5球団でもっとも強硬な反対派は広島ですね。松田元オーナーは『絶対にやらせない』と周囲に語っているそうですが、広島の論陣は野球本来の姿は9人で行うもの―という考え方に起因しています。
そして、阪神が反対する理由は「パ・リーグとの戦力的な格差は何もDH制があるなしの違いだけではない」という論調です。さらに言うなら、セ・リーグとパ・リーグにそもそも大きな戦力格差はなく、DH制を敷かなくてもパ・リーグに勝てる力をつけられる…という観点にも立っているようです。
ならば、阪神は主張していることに説得力をもたさなければなりません。パ・リーグに…特にDH制の敷かれるロッテ、ソフトバンク、オリックスの9試合に勝ち越して、通常のシーズンでDH制がないことが戦局において決して不利にはならない…ということを証明しなければならないでしょう。
もし、交流戦で阪神が大きく負け越し、セ・リーグ6球団全体も劣勢となればいよいよ巨人の主張が再びかま首をもたげてくるでしょうね。継続的に行われているセ・リーグ価値向上委員会で巨人はナショナル・リーグのDH制導入と交流戦でのセ・パの戦力格差を指摘し、いよいよDH制導入案を強硬姿勢で求めてくる可能性があります。
かつて、巨人の幹部はDH制導入に反対する阪神や広島などに対して、本気なのかジョークなのか脅し⁉なのか「それならウチだけパ・リーグに移籍するぞ」と漏らしたことがありますね。そんな事態を招かないためにも、阪神はパ・リーグを圧倒し、通常のシーズンでDH制度がないことがセ・リーグの価値を下げてはいない、DH制度が戦力格差にもなっていないことを自らが身をもって示さなければなりません。
矢野監督は交流戦に向けて「まだまだチーム状態を上げていかないといけないと思います。交流戦を何かのきっかけにできるように…。思い切って全員で戦っていきます」と話していました。戦局が好転すればさまざまな〝場外戦〟にも好影響が及ぶはずです。頑張ってもらいたいものですね。
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【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) 1990(平成2)年入社。サンケイスポーツ記者として阪神担当一筋。運動部長、局次長、編集局長、サンスポ特別記者、サンスポ代表補佐を経て産経新聞特別記者。阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。