「過疎」でもなく、「過密」でもない。暮らしやすく、住み続けることができるまちづくり。そんな理念を「適疎」というキーワードにして取り組んでいる町がある。
旭川空港から車で約10分。北海道のほぼ中央に位置する東川町は人口約8400人。豊かな自然と水田に囲まれている。
町は今年1月に「適疎推進課」を発足させた。ターゲットは、道外からの移住者だ。町では日本人を中心に転入者数が増加。昨年は470人(外国人含む)が転入し、転出者数を上回っている。この20年間で町外から移住してきた人の合計は最近の伸びを受け、現在、町民全体の約54%に達しているという。
活発な移住の背景にあるのは、最近打ち出している住宅支援や、テレワークで利用できるコワーキングスペースの整備、関係企業のためのサテライトオフィスの建設などの施策。町は新しい課の発足で、コロナ禍で定着したテレワークなどの動きを追い風に、さらに移住の促進を目指す。
「人生で、立ち止まり考える時間はとても重要。そのために必要な『余白』がちょうどいい」
町の印象を語るのは神奈川県から2年前に移住した安井早紀さん(31)。町の文化や自然を生かした体験を通じ、大人のための「学びの場」を提供する会社を起業した。
安井さんは「個性的な人や店が多い。まず自分を大切にした上で、他者との関わりを考えようという意識があるのでは」と話す。
町には道内最高峰の旭岳を有する大雪山系から豊富な地下水が流れこむ。住民はその恵みで生活し「上水道がない町」として知られる。地下水は農業用水としても利用され、地域の米づくりを支えている。
夕暮れに町内にある山から町を眺めた。雪解け水で満たされた水田に夕日が反射する。黄金色の大きな湖のように輝く、穏やかな光景が広がった。
コロナ禍で誰もが意識した他者や、自分を取り巻く環境との「距離感」。雄大な自然と、人の営みがコンパクトにまとまるこの町が、地方創生への一つのヒントを示しているような気がした。
(写真報道局 川口良介)