仙台市の最高デジタル責任者(CDO)補佐官に起用されたIT事業会社のトップ、藤原洋氏が24日までに産経新聞のインタビューに応じた。藤原氏は中国共産党機関紙「人民日報」の名称を用いた経済誌の理事長も兼務することから、保守系市議らは市政が中国政府寄りに誘導されかねないと警戒している。藤原氏は懸念を否定した上で、中国企業としたたかに付き合っていく必要性を強調した。主なやりとりは以下の通り。(奥原慎平)
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――4月1日に仙台市の郡和子市長にデジタル政策を助言するCDO補佐官に就任した
「今年2月のシンポジウムで郡氏らと鼎談(ていだん)した際、仙台市の経済発展案を話したら、興味を持ってくれたようだ。市から補佐官の就任を打診された」
――仙台市の強みと弱みは
「『交通・アクセス』『生活・居住』などは他都市との比較で上位に位置している。ただ『経済・ビジネス力』が弱い。仙台市は大企業の本社が少ない支社の町で、仙台発の事業があまりない。国際レベルにある東北大の研究開発力をビジネス化すれば、都市力もランクアップするのではないか」
――具体的なアイデアは
「日本で一番デジタル人材が育つ町にしたい。仙台のために働く人材を育成するため、市が独自に大学単位を発行し、ウェブやスマートフォンアプリの開発などを短期間に学べる仕組みを作っても良いだろう。半導体製造も東北大などと連携し、仙台地区で強化すべきだ」
――月刊誌「人民日報海外版日本月刊」の理事長を兼務している
「月刊誌は日中の経済交流のための経済誌だ。中国をビジネス視点で知ってもらうため、同誌編集長の依頼で理事長に就任した。同誌は、京セラの稲盛和夫名誉会長やニトリホールディングス創業者の似鳥昭雄社長をはじめ日本を代表する財界人にインタビューをしており、完全な経済誌だ。『人民日報』の名称はブランドとして使っているだけだろう。そもそも私は米国寄りの人間で、中国共産党に加担する気はない」
――中国の経済人の特徴は
「政治に関しては考えていない。ある意味、思考停止。政府が何をすべきかは中国共産党が決めることで、考えること自体意味がないからだ。だが、ビジネスとなれば別。日本は中国のことを理解し、中国の商売人を相手に上手にもうけなければいけない」
――藤原氏と中国企業の関係は
「中国国内の企業と付き合いはないが、日本法人の関係者とは意見交換している。日本法人の役割は中国の価値観を日本に押し付けるのではなく、日本社会にアジャスト(順応)することだからだ。中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)は、米国からスパイウエアが仕込まれる可能性が指摘され、情報通信分野で日本から締め出されている。情報通信を扱わない電源装置などは問題ないだろう。ファーウェイ・ジャパンは日本社会が受け入れられる製品が何かを調べるのが役割だ」
――大学や研究機関から機微技術の国外流出が課題となっている
「経済安全保障推進法が今月11日に成立し、同法に従い、軍事転用されかねない機微な技術は流出しないよう管理すべきだ。仙台市や東北大が指定を目指す(最先端技術を活用した都市づくりに向けた国の)国家戦略特区『スーパーシティ構想』では、構想全体を企画する『アーキテクト』を務めており、そうしたことも踏まえていく」
――中国広東省深圳の企業との交流をうたう日本深圳経貿文化促進会の最高顧問も務める
「深圳がなぜ重要かといえば、試作のスピードだ。日本でデジタル機器の試作品を作る場合、平均12カ月かかるが、深圳だと90日だ。深圳の試作力を学ぶため、促進会で深圳を視察したが、米中の貿易摩擦で最近は距離を置いている。研究開発の面では、イスラエルからも学ぶべきだろう」
――中国系企業を仙台市に誘致する考えは
「ない(笑)。逆に世界と戦える企業を仙台から発進したい。中国共産党の政策を押し付けることも中国企業にメリットのあることをしようとしたこともない。対中貿易で日本が優位に立つために何かできないかを考えている」
――中国系企業の太陽光発電事業参入について
「太陽光発電は基幹電力ではないので、ユーザーメリットがあれば問題ないのではないか。原子力発電や規模の大きな火力発電ならば別だ。外資が担い、供給が止められたら社会に大きな影響を与える。そこは政治が考えるべき話だ」
――日本を狙ったサイバー攻撃が増えている
「防衛に関するサイバーセキュリティー人材は防衛大出身者に頼っているのが実情だ。防衛関係のサイバーセキュリティーは軍事研究だと決めつけられ、東京大や京都大など学術界の代表が国防から遠ざけられている。国家の情報セキュリティーを守るには日本の全知能を結集すべきだろう」