朝晴れエッセー

ケーキと芋粥・5月24日

小学校3年生の頃、たいていの子供がそうであるようにケーキが大好物だった。当時、普通の家庭ではケーキを食べる機会は誕生日とクリスマスくらいのものだった。クリスマス・イブの日の夕方などクリスマス・ケーキを買って帰る人たちで街はあふれていた。

父はお酒はダメだったが、甘いものには目がなかった。そのためもあってだろう、月に1度はショートケーキを買ってきてくれた。大喜びで買って帰った日に2つ、翌日に1つ食べていたが、とてもそれくらいでは満足できない。毎度のように「一度でいいからケーキをおなかいっぱい食べてみたい」と言っていた。大人は自分よりも体が大きいのになぜ1つしか食べないのだろう、と不思議ですらあった。

忘れもしない大みそかの夕方、父がショートケーキをたくさん買って帰って「好きなだけ食べていいよ」とニコニコして言う。夢ではないだろうか!

夕食後、紅白歌合戦を見ながら早速4つをペロリ。「まだまだあるよ」と父がそそのかす。頑張ってさらに何とか2つ3つ食べたが、さすがにそれ以上は食べられずもうたくさん! 苦しくなってあおむけにひっくり返った。

それ以来、ケーキは相変わらず大好物ではあったが、たくさん食べたいという気持ちはすっかりなくなってしまった。父が芥川龍之介の「芋粥(いもがゆ)」に倣ったのだな、と気づいたのはずっと後になってからのことである。


猪俣泰典(68) 大阪府吹田市

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